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ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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 その肌は陶器。そう思った。
 初めて緑間を見たときの印象は忘れられない。派手じゃないけど目立つ顔立ちで、学ランは妙に様になっていて、緑で、でかくて、メガネで、偉そう。でもそんなこと以上に、包帯とほぼ同じ色をしたその手の白さが目に付いたのを覚えている。白くて、すべすべしてそうで、思わず陶磁器の人形を思い出してしまうくらいなんだ。割れ物注意の札を人間につけてはいけないなんておかしいな、なんて考えてしまうほどだったんだ。
「よっ、なあ、あんた名前なに?」
 前の席のイスをずらして、緑間の机に寝転ぶようにうつ伏せる。緑間は答えないが、見えたのかなって思うくらい短く一瞥されたから気付いているはずだ。無視かなと頬を掻いていると、小さく素早く、みどりましんたろう、と口が動いた。
「ふーん、じゃあ、しんちゃんね」
 言うと緑間は初めて俺のほうを向いて、思いっきりしかめっ面をした。気に入らないのか困惑しているのかわからない。そんなことを気にする余裕なんてなかった。
 だってこんなことは珍しい。いつもはこんなに気軽ではないんだ。一度会っただけの奴をいきなり渾名で呼ぼうなんて思わないのに、緑間の声を聞いた途端、名前を知った途端、答えていた。
 動揺する内心を隠すためににっと笑う。ちょっと心配になって緑間が嫌な気持ちにならなかっただろうかと上目遣いに見上げれば、相手はメガネを押し上げて一言言う。
「まあ、構わん」
 それから視線を元に戻して、もう俺を見ていない。窓際の暖かな光を浴びた指は綺麗だ。
 かの人は清らかだ。
 一連の緑間を見てそう思って、やばいと思った。だって、やばいだろ。女の子より綺麗で、高校生にもなって夢見過ぎなことをと思っているけど、汚せないビスクドールみたいだって考えちまうんだ。間違って倒してしまったら壊れそう。
 動悸は収まらない。やばいんだけど、俺は緑間を好きになっていた。

 なのに部活が始まってからは一転して恐ろしくなる。その才能にも自信にも、踏み込めない領域を感じてしまうんだ。そこに近づこうと、並び立ってやろうと挑むたびに、恐ろしくなる。壊れそうだとか二度と考えられない。美麗な顔は笑みを浮かべることはなく、陶器のようだと思った腕は強靭なバネでボールを投げる。冷酷なほど、寸分違わずにゴールに入っていく様子はなんだか出来すぎていて、寒気しか感じなかった。嬉しいって顔をしてくれたらいいのに、それもない。機械か精巧なマネキン人形って感じで、これも空恐ろしい。
 しかし機械ではない。俺は機械なんかを好きにならない。
「真ちゃん、すっげーな」
「……」
 近づいてきた緑間に言うと、嫌そうな顔で睨まれた。まあ、俺はにこにこして流したけど。
「すっげぇかっこいいぜー」
「鬱陶しいのだよ」
「いや、すげぇって!」
 ふんと鼻を鳴らして緑間は立ち去る。近づいたのはたまたま、なんだろう。緑間は誰かと話したり遊んだりしたがらない人種みたいだから俺がいるから来たなんてことはあり得ない。
 かの人は、気高かった。
 何度勝とうと、何度やっかみや嫌がらせを受けようと、緑間はただ見下ろしているだけだった。高い場所にいるのに、なおも高みを目指している。
 負けたあの日でさえ緑間は強くあろうとしていた。平気なふりして、スポーツマンのくせに体冷やして、携帯がぶっ壊れるほど長く、あの土砂降りの中で何かを耐えていた。
「真ちゃんはさー、かっこいいんだけど協調性なさすぎ!」
「……」
「まあいいけどさー。つかね真ちゃん、いい加減俺に返事くれてもよくない?」
 冷えた肌は白い。久しぶりに思う、白磁の腕。指。
 決して強くない緑間が何を耐えていたかなんて、俺には想像できない。意味がわからないって感じ。孤高すぎるその誇りやプライドに鳥肌が立ってしまう。敗北を認め、それでも貫こうとする信念がわからなくて泣きそうになる。
 俺は恐らく、その緑間の姿こそを好いているのだから、意地でも、笑っていたけど。
「真ちゃん、俺、本当に真ちゃん好き」
「……」
 緑間は何も言わない。弱々しい声なんて緑間には相応しくないからそれで良いと思う。
 俺は、何度も好きって言った。俺が緑間を好きなことに偽りないんだ。

 翌日には緑間はいつもの感覚を取り戻していた。多少丸くなったみたいだけど、まだまだだ。まあ、先輩方から文句はないし、唯我独尊な緑間はこれくらいが丁度いい。
「真ちゃーん、好き」
「……鬱陶しいのだよ」
 試合前に目を瞑る緑間は相変わらず綺麗だ。肌が白くて睫毛が長いからますます人形みたいに見える。
「真ちゃん、愛してる」
「知っているのだよ」
「まじで! ……って……」
 からかう調子で振り返って、慌てて顔を戻す。一瞬意味がわからなくなって、うわーって顔が赤くなる。心臓がすごくどきどきしている。やばいと思う。
 直視できなかった、わずか一秒の横顔。緑間は顔が華やかだから、香り立つようなって言葉がよく合う。香り立つような鮮やかな笑み。もう一度見たいけど、見たらどうにかなってしまいそうで、頭ん中真っ白で、何か恥ずかしくって、なんか舞い上がっちゃってて、つまずきそうになった。緑間は俺なんて構わずに戸口に向かっている。
「行くぞ」
 声を掛けられた。
「……おう」
 緑間は振り返らない。毅然とした姿でそこにいる。
 やばい、やばい。すごく嬉しい。どきどきする。鳴り止まない。変な感じに興奮している。にやけてしまう。普段からちょっとにやけ顔だからわからないだろうけど。
「高尾!」
 力強い呼び声が体内に木霊するように響く。駆け抜けるような興奮を感じたまま緑間に送ったボールは、白い指の中に消え、一秒だけ時間をおいて放たれる。白い手足が赤く上気してしなる。汗だくになった顔は柳眉が曲がっている。生命力に溢れている緑間の姿だ。
 緑間は振り向かない。ゴールの歓声が鼓動と重なる。
 ああ、かの人はなんて美しい。



   かの人はカサブランカ

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