ぽたぽた。
WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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≪人体の構造と機能及び疾病について≫
身体の成長・発達に関する次の記述の正誤を答えなさい。 問1。 「『乳幼児の頭囲が大きい場合には、脳性まひが疑われる。』」 「間違いなのだよ。脳性まひは頭が以上に小さいときに疑われるもので、大きい場合は脳腫瘍の疑いがある」 問2。 「『乳幼児の慢性的、かつ病的なやせの原因として最も多いものは、消化不良症である。』」 「それも違う。乳幼児が病的に痩せる1番の原因は先天性心疾患なのだよ」 問3。 「『出生後、肺呼吸が開始されると心臓・血管系に卵円孔や動脈管の形成、臍血管の閉鎖など解剖学的な変化がみられる。』」 「……もう一度言え」 「『出生後、肺呼吸が開始されると、心臓・血管系に、卵円孔や動脈管の形成、臍血管の閉鎖など解剖学的な変化がみられる。』」 「……ふん、違うのだよ。卵円孔や動脈管、つまりボタロー管はすでに形成され、閉鎖するのだよ、臍血管の閉鎖するのはあっているがな」 問4。 「『生後数日間の新生児の体重が減少した場合、重症な先天性心奇形などの疾病が心配される。』」 「違う。新生児は生後数日間は体重が減るものだ。それがない場合に、先天性心奇形を疑うのだよ」 「ちなみに聞くけど、その体重が減るっつーのを正しく言うと?」 「生理的体重減少なのだよ」 答えれば、さっすが! と、目の前で高尾がひっくり返った。 医学生として都内の有名大学に入学して早四年。春のうちに就職先を決定できている俺は近く行われる試験へ向けて追い込みをかけていた。年末年始も変わらない勉強漬けの様子にしびれを切らしたのは、現在ベッドに転がっている恋人で、たまには息抜きしようと言って昨日から俺の参考書をすべて取り上げてしまった。 もちろん激昂した俺は高尾を部屋からも家からも締め出し、その日はノートにまとめた分を見直すことで済ませたが、翌日、こいつのしょぼくれた顔を思い出して、仕方なく、家に来ても構わないとメールをした。 結局、実際に会ったのは久しぶりであるということでお互いの近況情報に花を咲かせ、少し盛り上がった後、ようやく俺は机に戻っていた。一度眠ったためか気分はすっきりしていて、そのころには腰の鈍痛も気にならない程度になっていた。 「これもう真ちゃん完璧じゃない? 試験余裕なんじゃない?」 「馬鹿を言うな。お前が読み上げたのは二年も前の問題なのだよ」 「いやでも、答えが変わるような問題じゃないし」 ベッドで俺の参考書を捲りながら高尾は苦笑する。 俺も頑として譲らなかったからだが、試験勉強をしていると構ってもらえないと不満を言ったこの男は、一時間も経たないうちにこうして自分の使い方を示してくるのだから参ってしまう。口頭問題は字がわからない以上あまり勉強にはならないが、まあ確認にはなる。俺とて高尾と話していたいのは山々なのだ。 「しっかしさ、俺今でも信じらんないんだよねー」 「何をだ」 「何って、真ちゃんが小児科医になるってことだよ! 真ちゃん、子ども苦手じゃん」 ああ、それか。 その疑問については高尾だけでなく周囲の人間、中学時代の先輩後輩や高校時代に関わった人間、果ては親でさえも未だに口にする。俺には無理だと言われたこともある。実際、俺の性格からして、子どものような何を考えているのかよくわからない行動を起こすものは昔から苦手だった。それは二十歳を超えてからより強くなったと思うし、言っていないが、今でも子どもは少し苦手だ。 同時に言われるのが、医者になるというのはなんか納得するな、という言葉。どうやら俺という人間は、頭の固い理系気質で、リアリストで、頑固な行動をする人物だと思われているらしい。 はっきり言って、とんだ思い違いだ。 俺からみた緑間真太郎という人間は、決して現実的な思考回路がないとは言わないが、どちらかと言えばロマンチストである。 俺は運命を信じているし、思い描いた理想を諦めきれないところだってある。ただ叶えたいから努力することを惜しまないだけだ。 「俺ねー、真ちゃんはどっちかっていうと脳外科医とか、そういう意味不明にかっこいいお医者様になるんだろうなーって思ってたんだぜ。それが訊いてみたら小児科って! 冗談だろってなったもん」 「別に隠していたわけではないのだよ」 「うん、わかってる。俺らが訊かなかっただけだしね。でも驚いたって本当!」 ごろんと寝転がった勢いを利用して高尾は起き上がる。参考書は先ほどまで片側がくるんと丸められていたが、いつの間にかきちんと閉じられていた。 「真ちゃんが子どもの相手してるって考えたら、……ぶはっ! 悪ぃ、顰めっ面しか思い浮かばない!」 「馬鹿にしているのか?」 「違うってば! でもさー、絶対に泣いちゃう子もいるんじゃね? ただでさえ真ちゃんデカいんだしさ」 「まあな」 大きさに怯える子どもは必ずいるだろう。大人でさえ、俺を見て驚かないほうがおかしいくらいだ。 だが、俺は、あまり心配していない。 「……どうせ、お前のように俺に向かってくるやつも出てくるのだよ」 「え」 高尾は心底びっくりしたように口を開けて、だが、にへら、と笑う。 「あー……うん、そーかも。真ちゃんって意外とモテちゃうかも」 「ふん。……高尾、子どもに妬くなよ」 「えー俺ちょっと自信ない」 「だからお前は馬鹿なのだよ」 「ひっで!」 高尾がまたベッドふ転がり、げらげらと笑いはじめる。こいつはこれで会社勤めができるのだろうかと思ってしまうのだよ。 「……高尾」 「はぁー……、ん、何?」 「俺は子どもが苦手だが」 「うん」 「……」 「なに?」 「……、可愛いとは思っているのだよ」 「…………は?」 きょとんと高尾が口をあける。大きめの目がぱちりと瞬きするのがやけにはっきり見えた。それにすこしムッとなるのは仕方ない。 「……可愛いだろう」 「え、あ、うん! けどお前」 「いい、忘れるのだよ」 「……ぶっ、もー! 真ちゃんってばもー!」 なぜか高尾がくすぐったそうに笑い出して、追い出してやろうかと思ったが、背を向けることで我慢してやる。 机に向き直れば、手元に広げたページはちょうど出産に関しての例題で、俺は微笑むと同時に切なくなる。 俺はさっき、高尾に告白しそうになった。「俺は子どもが欲しかったのだよ」と、言いそうになった。 言えば高尾は、養子縁組くらいやりそうだ。だが、同性愛者へ子どもを預けるほど、この国の制度は単純ではない。 だが、本心なのだ。 正しく言おう。俺は、高尾の子どもが欲しい。俺は、俺と高尾の子どもが欲しいとずっと思っていたのだ。 高尾和成という男を愛した日から、そのすべてを受け入れた日から、彼と共に一生を過ごすと決意してから、俺は欲しかった。ただ欲しかった。 高尾の子どもを、俺の子どもを、この腕に抱きたいと思っていたのだ。 もし叶うのなら、その子どもは、俺に似るのか、高尾に似るのか。 どうせならよく笑う、高尾に似た子どもがいい。高尾は俺に似たほうがいいと言うかもしれないが、俺は高尾の笑顔が好きなのだ。泣いてもいいのだよ、それ以上に笑うはずだから。騒がしいくらい元気がいい。頭がいいだろうか。俺が勉強を教えてやれば、まあ良くなるだろうがな。高尾と同じで理解力はあるはずだ。運動は得意だろう。バク転を教えてやるかもしれない。 まあどうなっても、きっとバスケが好きになる。大好きになるのだよ。 それならば、俺ほど大きくなるだろうか。それとも高尾くらいで止まってしまうのか。どうせなら高尾は越してほしいものだ。 「ねえ真ちゃん」 「何だ」 「さっきから手ぇ止まってるけど、どうかした?」 「少し考え事をしていたのだよ」 振り向いた高尾は笑いすぎて若干涙をにじませていたが、真剣な声をしている。俺はそれを笑うとポケットに入れていたハンカチを渡してやった。 俺の子ども。 それは夢に見るほどの、医学的に、生物学的に、不可能な願いだった。 俺は男で、どんなに受け入れようとも胎児を宿すような器官はない。それどころか、子どもになることを阻止しているようなものだ。 それを、罪と思うことはある。 それでも高尾といることは、俺にとって幸せなのだ。共にいれるだけで幸せで仕方ない。幸せで、幸福なことで、時々一緒だと言ってくれる高尾の思いが嬉しくて泣いてしまいそうになる。 「ふむ……、おい、高尾」 「なーにー」 「やはり試験にはなんとしても合格するのだよ。集中する。だから」 「うん?」 「笑わず黙るか、出ていくのだよ」 「……はいよ」 「ああ」 ハンカチを受け取った逆の手で、高尾は参考書を渡してくる。俺の部屋には娯楽がないから帰っていいと言ったのだが、高尾は座ったまま出ていく気はないて示している。 それが嬉しくてならないのだ。 俺たちに子どもはできない。我が子を抱くことは、ない。 だが子どもを、いとおしく思うくらいなら許されないだろうか。 その成長に触れることを望むのは身勝手かもしれんが、俺はどうしても願ってしまうのだ。 「俺は運命を信じているのだよ」 「え、何? 何か言った?」 「人事を尽くすと言ったのだよ」 「ああ、はいはい」 私、来週、国家試験があるんだ。 PR
【☆おは朝、今日の星座占い☆】
【1位 かに座、好きな人と急接近! うれしいハプニングに一日中どきどきしちゃうかも。素直になることが大事。 ラッキーアイテム:大きなかぼちゃ】 【2位 おひつじ座、チャンス到来。自分のペースを保つことが肝心。やぎ座の人を味方につけると上手くいくかも。 ラッキーアイテム:手作りの手袋】 【7位 いて座、あたふたと忙しい一日。一人で全部のことをやろうとしないで、信頼できる友人を味方につけよう。 ラッキーアイテム:孫の手】 【11位 さそり座、何をやっても邪魔ばかり。落ち着かないとさらに空回りしちゃうかも。いて座の人に要注意。 ラッキーアイテム:シャンデリア】 【12位 やぎ座、朝から疲れが取れなくてイライラ。アクシデントも起こるかも。苦手な人と一緒の時は慎重な行動を心掛けて。 ラッキーアイテム:カスタネット】 それを見た瞬間、取ってきた新聞を放り投げた俺は悪くない。 「もしもし、木村? おは朝見た?」 『宮地か、おー見たぞ。なんだあれ、絶対に今日のこと知ってんだろ』 占いを見たときの衝撃のまま木村に電話する。朝のロード終わったばっかで本当ならシャワーを浴びたかったが、あの1位と2位の衝撃はなかった。簡単なダウンをしながら木村の呆れ声に返事する。 「だよなー、なんだあれ。大坪見たかな?」 『見てるだろ、緑間に影響されすぎて(部活の)みんな見始めてるからな』 「言うな、むかつく」 『しかしまあ、これ、いい後押しになったんじゃないか?』 「だといいな。ま、そうじゃなきゃ面倒だもんな」 占いを信じているかはともかく、おは朝を見てる奴が多いのは間違いない。高尾じゃないが緑間のラッキーアイテムにかける人事の尽くし方がおかしくって見始めた奴もいるし、ご利益にあやかろうとしてる奴もいる。かく言う俺は練習前にいきなり見て唖然とするのに飽きて見始めた。おは朝の視聴率が上がってんだとしたら絶対に俺たちのおかげだと思う。 しかしおは朝はなんなんだ。俺はよく当たるとか言う以前の問題な気がしてきたぞ。 つか告白する予定の大坪よりも、告白される予定の緑間のほうが順位が上ってどういうことだ。緑間、お前おは朝に愛されてんじゃねーの。 『だな。で、ちょっと悪いんだが』 「なに?」 『俺今日行けそうにない。従兄んとこの叔父さんが盲腸の手術するからって親父が昨日からいないんだよ』 「えっ、大丈夫なのか、それ」 『ああ、心配ない心配ない。手術は前々からするって決めてたんだが、親父も昔切ってるからよぉ、昨日になってやっぱり弟の近くに行くっつって出ていっちまったんだ。今日は卸しいれあるから忙しいと思う』 「うわあ……大変だな」 『おう。だから今日はバスケ無理だな、大坪にも言っといてくれよ』 「ああ、うん。って、あ、え? おい、あいつらん仲に俺一人かよ!」 『悪いな。結果だけ教えてくれ』 「知るか! もういい大坪玉砕しろ!」 『リア充爆発しろ』 「そうだ、リア充爆発しろ」 玉砕するわけがないと思いながらも唸る。ひた隠しにしてるから大坪がそう思ってるなんて言われなけりゃ気付かなかったけど、いざ知ったらもう緑間もこれ大好きだろって気配がすごい。なんで周りは気付かないんだろうって高尾がいるからだけど、そんなん非じゃない。もう爆発しろ。ただし緑間だけでいい。 ダウンし終えて着替えた服を脱衣所に放り込むと、リビングから味噌汁の匂いがした。だが生憎まだ電話中だ。部屋に戻ってベッドへ転がる。 「えー、まじで来れないのか?」 『多分無理。だからフォローよろしく』 「ぜってー嫌。そもそも俺ら関係ないし。ほっといてもくっ付くだろ」 『おい、せめて告白だけは予定通りさせろよ。これ以上練習中にチラチラされてたまるか』 「そりゃそうだけど……」 時計を見たくてごろんと転がって、うつ伏せになる。お気に入りのアイドルが満面の笑みを浮かべている置き時計は7時半を指していて、あと数時間で集合かと改めて思うと気が滅入ってきた。 あの無意識バカップルに一人で関わるなんて絶対にしたくない。俺、緑間苦手だしつーか嫌いだし、きっと俺がいたら俺がキレる。大坪もいざとなったら吹っ切れて告るだろうし、ほっといてもくっ付いてくれるんじゃないだろうか。今日の占いは最高だし。 つか俺が切れなくても絶対に高尾が邪魔してくる。最っ悪。 「……ったく、高尾だけでもどうにかなんねぇかな……、ぶっちゃけあいつが一番問題だろ……」 『そうだな……、ちっ、よし、こっちで引き止めるか』 「はあ?」 『はあ、じゃねぇよ。俺が高尾捕まえとく』 「え、いや、いいよ。愚痴っただけだから」 『だって面倒だろ』 いやいやお前何言ってんの。思わず起き上がって止めに入った。何言ってんだよ、本当。木村って簡潔すぎてたまに訳わかんねぇことになる。 「面倒だけどいいよ。今日、木村、家のことすんじゃん」 『それはそれ。いや、ぶっちゃけた話、高尾いたら仕事捗りそうなんだよ、あいつウザいけど喋んの上手いから』 「はかどるって、んなわけあるか! いいよマジで! 気にすんな!」 『あのな宮地。お前が嫌々ながら今日のことに手を貸してんのって大坪のためだろ』 ぐっと、言葉に詰まる。だってその通りなんだ。 緑間のためにってんならこんな手回ししてやんないし、緑間のこと考えるともうむかついて木村の家に行って軽トラ借りたくなってくる。しかし部活なり何なり、やっぱ精神的に助けられたし、今まで迷惑とかいろいろ掛けてきた大坪のためと思えば、我慢しようと思える。今日のセッティングのために大坪を問い詰めて吐き出させた緑間への想いについては目を瞑るが。聞きたくなかったし。 『おんなじでさ、俺だっては大坪に助けられてんだよ』 「……おう」 『あいつは自分の問題だし、あんま話しやすい内容じゃないから言ってくれなかったけど、これ、そういうのの礼なんだし、こんくらいしたいんだ。だから高尾は押さえとくから、お前は緑間と大坪、頼むな』 「……チッ……わぁーったよ、たく」 なにこの男前? 木村が言ってると思うと俺としては似合わねーとしか思わないけど、たぶん男前なんだろう。あーもう、こいつに彼女いるの納得だわ。俺だって惚れそう。 って木村の奴、電話持ったまんま苦笑してやがる。なんだその似合わない笑い方。お前はもっと大笑いするタイプだろが。(ただし高尾のようにバカ笑いはしない。しても許せるけど。) 『ま、そういうことだ。高尾は責任もって捕まえとくから、大坪蹴飛ばしてでも告らせろよ』 「おう、つっても高尾たち行くかわかんねーぞ?」 『あー大丈夫だ、来る来る。高尾に店のでかいかぼちゃやるって言っとく』 「なるほど」 そういえば緑間のラッキーアイテムはかぼちゃだった。木村の店の野菜美味いし大きい、遅かれ早かれ高尾は木村の店に行くはずだ。もしかしたら二人して行くかもしれない。 「……はあ。木村、俺もそっち行って緑間連れてくわ。高尾よろしく」 『まかせろ。大坪も呼んどけ、バスケも行けたら行く』 「おっけーぃ」 そう言って電話を切ってようやく一息。これからの予定をもう一度考えようとして、頭のほうが拒否した。まじ緑間のことなんて考えたくねぇ、大坪も趣味が悪い。 脱力してベッドへ倒れこむと、放った腕が跳ねるのと同時に母親が呼んでくる。たった今横になったんですけど。 しかし腹はその声に反応したらしい。朝食もまだだったから思い出したように空腹感が出てきて、仕方なくよっと声をかけて起き上がる。無駄に胸はいっぱいだが、だが食べれないってことはない。 飯を食ったらそのまま木村の家に行こう。 先輩方の星座はうちの家族(5人家族で蟹座と蠍座がいるので丁度いい)
悔しいな。
「やはり……負けるというのは」 緑間が呟いたそれだけで、もう何も考えられなくなってしまった。 目が熱い。奥の奥から、炎症を起こしたように痛みと熱があふれてくる。頭が痛くてくらくらする。宮地先輩が泣いてて、木村先輩がそばにいて、キャプテンが、低く、うめいていた。 呼吸が浅い、ちっとも整わない。首や頬が熱を持っている。痛い、熱い。 無理やりなき止んで、ずっと鼻をすする。息が詰まった。やっぱり頭がくらくらする。それでも、体は動く。きちんと動いて、同じように泣いている全員と一緒にロッカーへ入る。ユニフォームを脱いで、背番号を見たらやばいと思ってバックに突っ込んだ。 早く出ようと振り返る。もう動かないんじゃないかってくらい重たい体を引っ張っていけば、廊下にはスタンドにいる部員が、みんな集まってきた。 ああ、嫌だな。こんな視界が不明瞭でめちゃくちゃなのに、見えてしまう。 泣いているんだ。キャプテンは、おおきな人だった。図体ではなく、主将として、チームの要としておおきな人だった。厳しい人だったから包まれるような優しさはなかったけれど、それでも、キャプテンがいるだけで安心していられた。俺は絶対に守られた恩返しをするって決めてたんだ。でもキャプテン、副部長と抱き合って泣いてる。大泣きしてるんだ。副部長も泣いてるけど、ずっとベンチにいたから、喉が嗄れてる。 その後ろで、宮地先輩は叩かれてた。ちくしょうって泣く宮地先輩を叩いている先輩たちもぼろぼろだ。あとできっと殴られる。皆真っ赤な目で、怒鳴りあう。あの人は人一倍努力家で、本気で怖いときもあるけどそれ以上にいつだって優しい人なんだ。そんな人まで泣かせてしまった。 木村先輩は? つい見渡して、後悔した。先輩は逆に、壁に背中を預けて一人だった。ほかの先輩たちが泣いて木村先輩に向かっていって、木村先輩が泣いているのわかって、唇かみ締めた。あ、でも、マネージャーが一人、隣に座ってくれた。あの人知っている、木村先輩と付き合ってる人だ。 そして緑間は、 (……真ちゃん。……真ちゃん、真ちゃん) 緑間は立っている。 今日は晴れだ。頭を冷やす雨なんて降ってない。だけど豪雨みたいに、応援していた部員が大声を上げて泣く間、声を上げて泣く資格もないというように緑間は立っている。雨がないから言い訳できない。 (あ、……うぁ) ああ、嫌だ。見えたらまた溢れてきた。悔しいからだ。俺は、もう泣かせないって決めていたのに。勝ちたいなんて同じだから、なら勝たせてやろうって、緑間をエースにしてやるって。 勝たせてやれなかった。あれほどの天才が、その力を惜しみなく使ったというのに、泣かせてしまった。ふざけるなと、いくらなじっても治まらない。無力なのは事実、勝敗は覆らない。 でも緑間が、誰よりも努力家で、自信家で、わがままで、かっこいい、緑間が、泣いてしまったじゃないか。 悔しいな。 うん、悔しいよ。 悔しいさ、ふざけるな。 いまだに硬く握り締めている手が痛い。爪が食い込むから、違う。血管が引きつるから、違う。悔しいからだ。 (なんで優勝じゃない、なんで勝ってないだ!) ベスト4。そんなものは望んでいなかった。そんなものはいらなかったんだ。 人事は尽くした。先輩も、仲間も、緑間も、最高だったんだ。 慢心していない。戦意喪失も気負いもなかった。なら努 力を怠った? まさか。全力した。人事を尽くして、天命を待つ。ふざけるな。俺たちには天命なんて、書き換えるくらいの力があったはずだろう。 怒りがわいてくる。悔しい。悔しくて、悔しくて。涙は出てくる。悲しくはない、ちっともだ。ただ悔しい。全力したのに、勝てなかったその現実に怒りが湧く。 悔しいな。 (ふざけんな! 何がよくやっただよ! 勝てなかったくせに!) 勝てなかった。勝たせてやれなかった。 頭の中を蹂躙するような声は俺の名前を呼び続ける。無力だとなじる。 よくやったと、誰が言える。秀徳と言う名前を背負って試合に臨んだ者が、三年の先輩を蹴落として、託されて、戦った者が、勝てなかった。ああ、このままでは、俺はバスケが嫌いになりそうだ。 「それくらいでいいだろう」 あ、と。 じんわりと、響いたのは音。音。聞き取れなかった言葉が、それでも聞こえたのは、それが、監督の声だったからだ。 俺たちと同じように、全力してくれた人だからだ。 「全員来い、集まれ」 監督の声が、今度はしっかりと言葉で聞こえた。塞ぎたかった耳が言葉を通す。思わずまばたきした瞬間、溜まっていた涙がぼろっと落ちで、でも、おかげで視界もクリアになる。 「全員、背筋を伸ばしなさい。いつまで経っても話せないだろう」 「あ……、はい」 「返事」 「はい!」 異口同音。監督に対する礼儀は秀徳バスケ部の基本だ。それは、どんな時でも変わらない。 「負けたな、……――負けた」 監督は一瞬目を閉じる。まばたきと何が違うなんて聞かれても答えられないが、それでも分かる。 負けた。改めて言われて、今度は怒りより辛さが立った。俺たちは、監督を日本一にすることもできなかったんだと思い知らされる。自然と目線が下がった。座る監督の喉のあたり、もはや誰もが押し黙る。涙は止まったがただきつい。 だが、監督の喉が動く。 「それでも、秀徳は王者だ」 いや、と、監督は手をあごに当てる。そして躊躇いなく言い換える。 「王者は秀徳だ」 どきと胸が鳴る。見開いた視界で、監督は前を見ている。 「今日の試合は、全力だった。全員、総力戦だ。しかし負けた。この敗因がわかる奴はいるか?」 「……」 「わかるなら、全員に話せ。どんなに些細なことでも共有し克服しろ。そして、負けた理由がどんなに考えてもわからないなら――――誇れ」 俺の息が止まる。 同じように誰も呼吸しない。次の試合の歓声が聞こえるはずなのに、それも聞こえない。 監督は続ける。心なしか、語りが遅い。 「負けるはずがないほど努力したなら、誇れ。羨む必要も卑屈になる必要もない。胸を張って背筋を伸ばせ。そして、次は勝つ」 勿論、次もだ。頷いたのか、頭が動くのが見えた。 音は戻らない。違う、掻き消されている。俺の心臓がうるさいくらい動いているからだ。 「西藤」 「はいっ」 「お前が主将だ。大坪、指導を頼む」 「はい!」 「王者は秀徳だ。来年なんて気の長い話をしてるんじゃないぞ、今から、秀徳は二度と負けない。学校に戻ったらミーティング、練習は明日の朝から、いつもどおり行う。三年も参加しろ。今後メニューは少し変えるが、一日で慣れるはずだ。自分の反省点は家で洗い出して来い」 「……はい!」 返事をして、三年生も参加するなんてと、可笑しくなった。引退じゃないの?って、勉強大丈夫なのって、苦笑してしまった。 バスへ促す監督の号令にすぐに全員立ち上がる。あちこちから大きな返事と盛大に鼻をすする音がして、かく言う俺も、目を思いっきり擦ってから立ち上がる。隣では真ちゃんが眼鏡をかけ直していた。近くで見たら目、真っ赤。兎みたい。笑える。ああ、なんか俺らしい。 (王者は秀徳、俺たちが次の秀徳) ああ、良かった。 まだ悔しい。洛山が羨ましいし自分は不甲斐ない。先輩たちと優勝できなかったのも緑間を勝たせられなかったのも、悔しくてたまらない。この敗北は一生忘れない。 でも、俺、またバスケが好きになれる。 「それから言い忘れたが」 「何ですか?」 「先ほど洛山高校に練習試合を申し込んだ。まだ検討中だが、予定が空き次第、再戦できるはずだ」 「……はあ?」 「仕方ないから、来週は紅白戦を行う。一、二年生対三年生。負けたほうは、うーん、そうだな……勝ったほうの我儘を三回聞くとしよう」 「え」 耳を疑う。一年も二年も、三年生まで固まっていた。キャプテン、その顔やばい。緑間は理解できてないのかびっくりしてるのか、眉間の皺がなくてなんか可愛い。しかし、気持ちはわかる。監督は今、大量すぎる爆弾を落とさなかっただろうか。 「我儘の内容だが、轢くのはダメだが、まあ、一発芸くらいは許す」 俺的にはまだ先輩たちとバスケができるんだと思うと嬉しくてたまらないし楽しみだけど、監督、その補足はいらない。キャプテンの後ろで宮地先輩がにやぁって笑い出してる。木村先輩まで悪い顔してる! 「やっべ……ぜってー負けらんないぜ、真ちゃん」 「……望むところなのだよ」 「だよなー」 緑間が眼鏡を直しながら笑う。俺も笑う。やっぱり俺は、バスケが好きでいる。秀徳が、好きでいる。 いつの間にか音は戻っていた。あの歓声が俺らのものでないのはきついけど。きっと思い出してうなされるくらい悔しいけど。大丈夫だ。 王者は秀徳。 俺たちが、次は勝つんだ。 支部での企画に参加しました。 秀徳のイメージってこんな感じ。実は一番かっこいいのは監督だと信じて疑わない私。本誌では負けてしまいましたね…いえ、わかっていましたが… 緑間が大好きなので緑間がいるだけでテンション上がっていた私としては、黒バス最熱の本当にありがたい期間でした しかしこの話、モブが多すぎる
俺、真ちゃんのこと好きなんですよねぇ。結構本気で。何が好きって全部好きなんすよ。黙ってりゃ綺麗だし、口開けばかなり面白いし、可愛いとき可愛いし。え? いやいや可愛いですって!
それに、バスケすげぇし。俺、あれはマジすげぇと思うんですよ。才能もそりゃあるんだろうけど、努力もしてるし。つか日頃から指、テーピングで保護してるとか普通あり得ねぇ。執念っつーか、それに、なんだっけ、人事を尽くして天命を待つ? 占いにまで手ぇ出してんのは笑っちゃうけど、それもそれだけ本気ってことだし。本気で負けたくないってことだし。勝ちたいってことだし。 なんか俺、そういう真ちゃん見てるとマジいいなって。絶対勝たせたいって思って。やっべえ好きだって思って。どんどん好きになってくみたいで。 なんでキャプテンなんすかね。 確かにキャプテンは真ちゃんのこと大事にしてるみたいだし真ちゃんはキャプテンのこと大好きだけど、俺のほうが真ちゃんのことキャプテンより好きな自信あるっつか俺のが真ちゃんのこと絶対知ってると思うんすよ。だっていっつも傍にいるの俺だし。真ちゃんが笑ってるときも泣いてたときも一緒にいたし、いなくなったら絶対捜す。キャプテンは捜すのかな……。真ちゃんがいなくなったら一番に見つけられるよ、俺。何処に行ったかとかすぐわかるし。好きなんだから当たり前じゃんね? ……ですかね。 けど真ちゃん靡かないんです。キャプテンのことすごく好きなんですよ。そんなに何処が好きなんだって聞いたら顔赤ぁくしてさ、可愛いけどちょっとムカってして……あ、で、何処が好きって聞いたんですよ。そしたら背が高いことらしいんすよ! そんだけ! あとは特になしって―― ガタッと、そこまで一気に捲し立てて高尾はのけ反る。一度、すっと息を吸う。 「無理に決まってんだろーーがあああっ! あーもー!」 「うっせえよ」 頭を抱えたまま絶叫した後輩を木村が叩き落とす。宮地はもっとやれと心の中で声援を送る。高尾はのけ反っていたために後ろに倒れそうであたふたした。 大坪と緑間が付き合っているというのは事実だが、ひた隠しされている事なので知らない人間は多い。高尾はそれでなくとも以前から緑間に好意を寄せていたのだから、先手を打たれていたことに地団駄踏んで悔しがっているのだ。 「ひっでぇ! だってさ! バスケならプレイスタイルとか様々だからいろいろ手はあるし、勉強とかなら頑張れるけど! 身長って無理でしょ! キャプテン198センチあるのに、2メートルまで伸ばせって!? 伸びねぇよってか俺、低くねぇよ! 普通! 平均!」 「まあな」 「まーね」 厳密には緑間は廊下などですれ違うときとかに何とはなしに頭を叩かれたり、ふとしたときに触れてもらえることが嬉しいらしいのだが、ちゃんと説明していないのだから高尾に伝わるわけがない。宮地とて大坪がめずらしく惚気てこなければ知らなかった。 大坪から内密に呼び出されて緑間の行動を惚気られたのは最近の話ではない。最初は驚きを隠せなかったが、恋愛に疎い大坪の普段との違いが面白かったので付き合っていた。しかしそれももう二ヶ月となれば飽きてくる。下手をすれば一週間ごとに呼ばれるのだ。大坪は相談のつもりだが無自覚な他人の惚気ほど聞いていて殴りたくなるものはない。そもそも宮地は緑間のことなど知りたくもないのだ。 (てゆーか、あの堅物ムッツリが惚気てんだぞ? わざわざ俺と木村呼び出してさ!) この騒がしい後輩が何をとち狂って同じ学年の男に恋愛感情を抱いているのか知らないが、残念ながら相手はすでに別の男のものである。それが周知かどうかは別として、本人たちはこっそりと、しかしはっきりと、鬱陶しいまでに幸せオーラを出しているのだ。高尾の言うとおり、お互いがお互いをかなり好いているらしい。正直に言って、バカップルのようなあの二人の間に高尾の入り込む余地はないように思える。 「そりゃそうですけど! でも愛には深み重みがあるもんでしょ!? 真ちゃんを理解してやれるとか男気とかなら俺、負けてないし。大好きだし愛してるし! 絶対俺のほうがいいのにさあ!」 あーもーと、叫ぶだけ叫んで高尾は両腕に頭をうずめた。やっと静かになった店内に息をつけば、今度はちらちらとこちらを窺う店員の視線を感じて木村は頭痛がしそうな顔をした。宮地はすでに空になっているグラスの氷を噛み砕いて、ため息を吐く。 「あんさぁ、高尾。お前、何したいの?」 「はい?」 おかしな声を上げる。それに宮地はイラッとしたのがわかった。 「大坪に緑間取られた愚痴を俺らに言ってどーしようっての。慰めてほしいわけ? それとも大坪から緑間を奪い返したいから良案でもよこせっての? さっきからさぁ、何したいのかぜんっぜんわかんないんだよね~」 額に青筋を立てたまま笑顔になっていく宮地に木村が目を逸らした。弾かれたように起き上がった高尾は相談だと言って、宮地はだから何の相談だとついにキレる。高尾はだから、としばらく言葉に詰まってあたふたしていたが、そのうち両手を組んで目を覆った。天井を仰いだまましばらく動かない。 「俺、真ちゃんのこと本気で好きなんすよぉ……」 それから、開口一発目と同じことを高尾は言う。 「綺麗で、面白くて、可愛くて、がんばってて……、俺、もう泣かしたくないし、絶対勝たせたいって思って。やっべえ好きだって思って。どんどん好きになってくみたいで。これなんかやばいじゃん! やばいですよね、マジでどんどん好きになってって、これ、収まんなくなったらどうしよう、真ちゃん傷つけたらどうしようって」 怖くなると高尾は締めくくる。宮地はまたため息をついた。 「俺、真ちゃんが幸せじゃないの嫌なんだよ」 「……あー」 「けど」 何か言わなければと木村が口を開いたとき、高尾がまた言う。腕はずり落ちたが上を向いたままで顔は見えなかった。 「俺、キャプテンのことも、嫌いじゃない」 沈黙する。 木村がどうしたものかと考え込んでいる隣で、宮地がため息を吐く。それはそれは面倒くさそうにため息を吐く。 そして高尾と冷静に呼びかけた。高尾は後ろに落ちていた頭を戻して宮地を見る。泣いていなかった。そんな分かりきっていたことに木村は少しほっとしたらしい。 「緑間が好きなんだよな?」 「……」 高尾が頷いた。 「で、大坪も好き?」 「……」 「堂々巡りか」 「……」 言葉なく、高尾はまた頷く。宮地と木村もまたため息をつく。なんて答えのない問題だろうか、今日のうちに逃げた幸せがいくつあるのか数える方がまだ明解だ。 今まで騒がしかったのが嘘のように静まり返った席で、宮地は最後の氷をがりがりと噛み砕く。すでに小さかったそれを飲み込んで、よしと掛け声を掛けて高尾を見つめた。 「ならもう仕方ないな、解決したら教えろ。俺なんか飽きたし帰る」 「は?」 「え?」 さも当然だというように宮地は立ち上がる。疑問符を浮かべる木村と高尾は反応が遅れた。宮地はその間にスポーツバッグまで肩に掛けていた。再度言うが、本来宮地は緑間のことなどどうでもよく、知りたくもないのだ。 「……」 「えええええ! 待って、それだけ!? 助けてくんないのぉ!?」 「うっぜえ! つーかこっちに何決断押し付けようとしてんだよ。知るわけないじゃんそんなの。マジで助けて欲しかったらそれなりのことしろっての!」 「鬼!」 「刺すぞてめぇッ、あと、さっきから舐めた口きいてんじゃねーよ! こっちは先輩だ敬語使え敬語!」 「今更ァ!?」 「静かにしろよ……」 立ち上がって止めに掛かる高尾と、そんな高尾の首を締めながら睨みつけている宮地に、店中の視線が集まっている。もはやあからさまに窺ってくる店員の視線を感じて木村は気が遠のきそうになっている。もう問答しようという気力もない。 はあと、大きくた漏れたため息は宮地の怒声に掻き消されて誰にも聞こえなかった。 高尾はいい子だよ!てことを言いたかったんだと思う。あと木村はいい奴だよってのも。 題名は翌日の朝練時です。
土曜日は丸一日練習になる予定だったが、監督に用事ができ、部活は急遽中止になった。部員だけでも練習できるが、今回は、駄目らしい。
だからこの日、広い体育館に一人でいた宮地の姿はおかしなほど小さく映った。 「……何をしているのだよ」 緑間の言葉は宮地が何故ここにいるのかを疑問に思ったもので、宮地の練習を指してはいない。 どうやら宮地はスリーポイントの練習をしていたらしい。投げられたボールは曲線を描き、バッと音を立てて、ゴール下に転がっていた他のボールに混じった。それから一歩下がって。スリーラインから少しはなれた所から打ってもボールはゴールに入った。 さらに一歩下がって、また一歩下がって。一度ゴールを向いたが何か呟いて、一気にハーフラインまで歩く。 そして、そこから投打した。 自主練習なのだから、コートには敵も味方もいない。誰も邪魔をしていないし、宮地のフォームも完璧だった。きっと緑間なら入れただろう。 しかし宮地のボールは入らず、それどころかゴールに届かないままコートに落ちた。だんっと音を立てて跳ねるボールを拾いながら、宮地は「うわー……ださー……」と一人で呟いていた。そのあとボールを片手で抱え、もう片方の手を顔にあてた。 「――……っ……」 緑間は思わず体育館から逃げる。しかし焦ったままでは上手く走ることはできず、すぐ近くの水飲み場でつまずいた。転びはしなかったものの、たった数十メートルの疾走で息が切れてしまい、座り込んだ。 目の前の運動場ではサッカー部が走っていた。大声で叫び回るが、その様子も言葉もよくわからなかった。切れ切れの息を直す間も、つい今しがたの光景が浮かんでくる。 ただ、汗を拭っただけかもしれないと思う。単に、どこかが痒くなったのかもしれなかった。 それでも今、緑間は宮地を直視できなかった。 「……ッは――……」 息を吸った瞬間、頬がかっと熱くなる。いやな汗も感じる。心臓は殴り付けたように脈打って、呼吸は上手くできなくて、苦しくなった。涙と一緒に鼻水が出てきたようで、鼻を啜ると酸素不足の頭は軽く頭痛がした。 詰られたわけではない。責を負わされたわけでも、無視をされたわけでもない。 試合で己の力を出し惜しみすることらなかった。宮地に限らず、レギュラーも外野の誰しもが全力した。それでも負けたのだ。理解していた。 ただ、あの姿を作り出したのは緑間自身なのだと、唐突に知ってしまった。 負けたんだと思い知らされた。 「……っ」 奥歯を噛みしめる感情が何なのかよくわからない。言い表せないまま渦巻いている。後悔はある、嫉妬も同じくらい。哀願したいし、尊敬もしている、それでも優越もある。ない交ぜになる。間違はない。誰も悪くない。それでも何かに謝りたくて、だが謝ることは出来ない。謝ることは理不尽だ。 「あれ、……緑間? 大丈夫か?」 名前を呼ばれて顔をあげると、心配そうな表情をしたサッカー部員が見つめていた。顔を洗いに来たらしい。 ああ、邪魔になっているのだと気付き、立ち上がる。周りの視線が集まっているのもわかって、少し冷静になった気がする。サッカー部員はまだ心配そうで、使っていないからと言ってタオルをくれた。大丈夫だと返したかったが、頷くだけで精一杯だったので押しきられる。 校庭を離れていきながら、混乱したままの頭をどうにか回転させようとするが、まだ無理そえだった。あのサッカー部員がクラスメイトだと気付いたのもずいぶん経ってからだった。 今更誠凛戦の後日談 高尾視点も書きたい(何故 |
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