忍者ブログ
ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 ひし形の金網にボールが当たる。跳ね返るボールはすぐ手のひらに戻って、ダンダンと音を響かせながらコートを動き回った。中で元気に走り回っているのは小学生だろうか、黄瀬の周りに三人も四人も纏わりつくようにしてボールを奪おうとしている。黄瀬はそれなりに必死らしく、通りかかった俺と黒子にはまだ気付かない。
「青峰君はヒーローだったんですよ」
 コートの端で座り込んでいるほかの海常の選手を見ていると、いきなり黒子はそう言った。しかも俺がそれを詳しく聞きだす前に、
「ヒーローって、かっこいいですよね」
と、繋がっているんだか繋がっていないんだかわからないことを続けた。その横顔はじっと金網を見つめていて、けれどきっと、先にいるこどもを見ているわけじゃなかった。
 言葉通り受け取るなら、青峰はヒーローで、ヒーローはかっこいい、つまり青峰がかっこいい、と言いたいんだろうか。
 だとしたら、それは、悔しいが本当だと思う。青峰のバスケは力強くて、俺だってただかっこいいと思った。普通のスーパーヒーローの形として成っていないだけで、バスケをしている人間として、憧れる。それに、その力に対する嫉妬よりも羨望が適ったのは別に昔のことじゃない。
「……それが、なんだよ」
そうだ。それが、何なんだろうか。青峰が黒子の憧れであるとして、今見える中に青峰はいない。ただの比喩として用いられているにしても、何かおかしい。
青峰は、黒子の光だった。だから違和感があるんだろうか。ヒーローも光も同じようなものだと思うが。
「ヒーローと光って、結構別物ですよ、火神君。たしかに彼は僕だけの光でしたが、それと同時に僕らみんなのヒーローだったんです」
「みんなっつうのは」
「黄瀬君も緑間君も紫原君にとっても、です。中学の頃の彼は、ただヒーローだったんです」
 だったら何故、そんな苦しい声をしているのか。青峰がヒーローだったと語る黒子は、感情を押し殺したみたいに硬い声色で、目もいつにも増して無表情だ。時折見せる静かな怒気もない。
 苦しんでいると言われればそう見える。だが何に苦しんでいるかも俺にはわからないし、おそらく語られることもない。答えを求めているわけでもないんだろう。
「僕らは、ヒーローに憧れていました。けどそれは、青峰君に憧れていたわけじゃなかった」
「わかんねぇな」
「はい。よくわからなくでも構わないんです」
 黒子が金網に手をかける。コートの中では黄瀬と交代した森山が、こどもの頭の上でゴールを決めた。悲鳴をあげているのは何故かこどもではなく海常のメンバーの方だ。小学生は目をきらきらさせて歓声をあげている。
「あれもヒーローか?」
「ええ、きっと。あれがヒーローです」
 ようやく黒子がすこし笑った。俺はそれにやっと安心した心持になって、黒子から視線をずらした。コートでこどもの中心にいるのは今度は早川だ。一緒になってはしゃぐ様子はヒーローには見えないが、それでもヒーローらしい。
 考えていると小堀に気付かれたらしく指を指された。コートを横断してくる黄瀬を笠松が怒鳴っている姿が金網越しに見えた。その姿はかっこいいわけなかった。









中学青峰はヒーローなんだけど、人を助けるヒーローじゃなくて圧倒的な存在としてのヒーローだと思う。パフォーマーとしてのヒーロー。
そういう意味ではヒーローよりも神様に近かった。だからキセキも尊敬してるだけで近づいてない感じ。バラバラチーム最高期のヒーローは孤独

拍手[0回]

PR
 黒子と喧嘩した。理由はよく覚えていなくて、つまり相当どうでもいいことだったんだと思う。それでも、手を出さなかっただけで丸一時間は口論していたわけだから、やっぱりそれなりの理由だったんだろう。
 ただ言えることは、猛烈に腹が立ったということだ。
「くそっ」
 悪態を付きながら部屋に入ると携帯が鳴っていた。時計はすでに零時を指していて、誰だと思って見れば、見知らぬ番号からだった。
 いらっとして、通話ボタンを押す。不審人物との接触は避けるべきらしいが、今はこの非常識な奴を怒鳴りつけてやりたかった。八つ当たりだが。
「おい、てめぇ誰」
『火神君』
 止まった。器械を隔てて聞こえてきたのは黒子の声だった。先程まで(四時間も前のことを先程と言えるのかはわからないが)あんなに盛大な口喧嘩をした相手から連絡があるとは思っていなかった。
『火神君、すみません、聞こえていますか?』
「……なんだよ」
 散々迷って出た言葉はそれだけだ。何せ真意が読めない。普段の表情でも何を考えているのかよくわからないのに、表情以前にどこにいるのかもわからない状態では尚更だ。それに、本当にさっきまで喧嘩していたのだ。文句をいえば良いのかもわからないし、やはり気まずい。こっちから前向きな世間話をしようという気分にもならなかった。ただの連絡ならさっさと終えたい。……本当に連絡事項だけだったら、それはそれで腹が立つのだが、それは我慢だ。
『助けてください』
「はあ?」
『今家の近くにいるんですが、どうしても足が動かないんです。よければ、迎えに来てもらえませんか?』
「はあ!?」
 なんだそれはと思わず怒鳴る。いったい自分がいない間に何があったんだろうか。動けない程の事態に血の気が引いていく。
『火神君……あの』
「どこにいる!」
『あの、勘違いしないでください。無事ですから』
「いいから答えろ、どこだ!」
『分かれ道です。火神君の家に行く道の』
 上着も取らずに走る。外は冷え込んでいて、明日は雪が降るんじゃないかと思う。この時間に黒子はどこをうろついているんだと思わずにいられない。黒子の家までの最短ルートを考えながら、自分のせいかと頭の片隅で苦々しく思っていた。事故でなければいい、事故でなくて、また昨日のようにバスケが出来るなら構わない。
 足に力を込める。どこまでも速く向かわなければと思いながら、ぎっと奥歯を噛んで悪態を付く。
「黒子のやつっ……あとで絞めるッ」
「それは嫌です」
 びくっとした。変な声が出ることはなかったが、つい思いっきり振り向いた首が痛い。軽い鞭打ちになっているんじゃないかと思う。
 声でまさかと思ったがやはり黒子がいた。いつも通りの表情で塀に凭れている。
「お前っ!」
「静かにして下さい。近所迷惑です」
 よっと立ち上がった黒子の顔の横に手を叩きつけた。必然、壁に押さえつける形になる。壁は冷たかったから俺の手はしもやけになるかもしれない。黒子は普段通り平然としている。
「動けねぇんじゃなかったのかよっ」
「動けませんよ。ここまで来たくせに、足が言うことを聞いてくれないんです」
 意味が分からないと小声で叫んだ。黒子は気にしていないのか、そのまま、呼び出したことを謝られた。また少しイラついた。
 どうやら簡単に話すつもりはないと分かったが出たばかりの家に引き返すのはなんだか格好悪く思える。何せここは家から5分と離れていないのだ。しかも大した分かれ道ではない。
 しかし寒い。自分は風呂上がりなのに防寒なしで飛び出したせいで寒くて仕方がない。黒子がコートを脱ごうとしたが、さすがに着れないから遠慮する。呼び出したくせに黒子はちゃんと歩けるようなので、付いてくるのをいいことに帰路につくことにした。
「何しにきたんだよ」
「……謝りに来ました」

「あんなところでかよ」
「……仕方ないじゃないですか」
 腕で肩を覆いながら睨む俺に黒子が少し目を伏せた。
「たぶん僕が悪いって思って謝ろうと来たくせに、いまさら謝って、これ以上君に嫌われたらどうしようって思ってしまって、動けなくなってしまったんです」
「……あん?」
 理解しきれず反駁して、理解してから固まった。立ち止まった俺を見上げてくる黒子の頬は、夜に冷やされてマフラーの下でさえ赤くなっている。それを見て、はあとため息が出た。
 黒子の頭をぐいっと掴む。そして、そのまま家に押し込んだ。小さく間抜けな「あ」が聞こえたが気にしないことにする。
 扉を閉めれば、外との温度差は一目瞭然だ。暖かくてやっと一息ついた。
 そのまま自室に追いやって黒子の頭を今度はぐしゃぐしゃに掻き回す。冷たいマフラーとコートを椅子に掛けさせれば、やっと抱き締められた。
「あの……」
「あー……、俺も悪かったわ」
 黒子の体も冷えきっている。電話してくるまでにどれだけ待っていたのか。なんだかんだとメンタルの弱いところがある黒子のことだから、もし動けないほどのことが起きているならそれはきっと自分のせいだろう。
 それを言い合う気はないが、伝わればいいと乱した髪を整える。黒子は、やっと力を抜いた。
「そういやお前、喧嘩の内容覚えてるか?」
「いえ、火神君もですか?」
「ああ、……じゃあお前、なんで謝りに来たんだよ」
「……笑いませんか?」
 何故か言いよどんで、黒子は上目遣いに見つめてくる。俺が頷くと、黒子は口元を腕に隠して話し出した。
「帰りに福田君たちに会いまして、また喧嘩したって言ったらもう別れたほうがいいんじゃないかって言われて、その、悔しくなったので……」
 赤面した黒子を見ながら、一瞬、本気でどういうことなのか分からなくなった。しばらくして漸く理解しきる頃には、黒子は呆れられたと思ったらしく、あさっての方向を向いたまま黙り込んでいた。
 福田たちはおそらく悪気なく、からかう感覚でいったんだと思う。俺たちを別れさせるメリットはないし、悪意を向けられるほど険悪な交友関係ではない。黒子もそれはわかっているようで、そのうえで悔しかったんだろう。
「まあ、なんだ……」
 何というか、改めて思う。黒子は実はめちゃくちゃ可愛いんじゃないだろうか。こういう可愛いところを知っているから、たぶん自分は助けを乞われれば飛んで助けに行くんだろう。それが恨めしいとは思わなかった。
「泊まっていくか?」
「……はい」
 ぎゅうっと抱き締める。黒子の体温は低いほうだが、冷えきっている自分には充分暖かい。覚えてもいない喧嘩の理由に感謝した。






仲直りする火黒が書きたかったのです

拍手[3回]

 誕生日プレゼントを貰ってしまった。
 帰り道でいきなり渡されたマフラーは僕がいままで使っていたものと似たピンク色のもので、薄手のわりに暖かいし、しっとりとした肌触りが気持ちいい。とても気に入ったし、とても、嬉しい。
 では何故こんなにも反応に困っているかと言えば、マフラーは彼らしく素包装で値札付きのままだったので、そのせいでこの贈り物が意外に高価なものだと分かってしまったからだ。なにせ僕が火神君の誕生日にあげたものはマジバの割引券という、知らなかったからでは済まないような投げやりな本当に安いもので、このマフラーとはどう考えても釣り合いが取れていない。火神君は気にしていないのか、僕にこれを渡した格好のまま大あくびしている。僕が云々と考え込んでいるなんて思っていない姿はちょっとイラッとするがむしろ呆れてしまう。ごく偶に思うことなのだが、彼の金銭感覚はおかしいと思う。アメリカではどうだったか知らないが、日本で売買をするものとして間違っているような気がするのだ。
「正直に言って、覚えていたことに驚いています」
 言ってから何て事をと思う。ただそれは照れ隠しで、決して嫌味を言いたかったのではないのだと伝えたい。いや、驚いているのも事実ではあるのだが、しかしそれはそれこそ火神君の誕生日に僕が、忘れないでとしつこいくらいに言い続けたのが原因だと思う。今思い返せばたまたまポケットに入っていただけの割引券をあげたくらいで、よくあれほども偉くなれたものだ。あの時は単純に祝いたいとしか思っていなかったが、自分だけが高価なプレゼントを貰ってしまったと言うのは気が引ける。火神君がさも何事もなかったかのようにしていることがまた不満と言っては失礼だが不満なのだ。未だあくびを繰り返すその口で不明瞭ながらマジバに寄って帰ろうと言ったが、それだってきっと他意はない。
 歩いていると手に持った紙袋が擦れてかさかさ音を立てる。愛されているらしいと言うくすぐったさに加えて、負い目と言うか、気恥ずかしさというか。考え込んでいるとまだちゃんとしたお礼を言っていないことにも気付いてため息が出た。
 ふと、同じように何かを考えていた火神君の歩調が落ち、ついに立ち止まった。何事かと見上げると、音を出しそうな程ぎこちなく火神君が首を向けてくる。火神君は何故かばつの悪い表情で、とても動揺しているようだ。僕の名前を呼んだ声も、少々引き攣っていた。
「……お前、欲しいもんとか、食いたいもんねぇか?」
「え」
「祝うから」
「はい?」
 思わず首を傾げる僕を見下ろしながら、火神君はひどく冷や汗をかいたまま無理に笑顔を作った。
 僕がお礼を言えたのは二時間後である。









黒子はぴば!
実は誕生日を失念していた火神。意外とセレブとかいいと思う。
マフラーはぶらぶら歩いているうちに行き着いたオバサン服売り場にあったものを、あげたくなったから買いました。だからラッピングなし。

拍手[2回]

棘のついた蔓に触れるとちくりとしましたが血が出ることはありません。そもそも棘らしい棘ではないのですから痛みなどあるはずないです。そうしたら前を歩いていた彼は振り返ってなにしてるんだって怪訝そうな顔をしています。そのまま垣根を見ていた僕に近づいてきて今度は声に出してなにしてるんだって言うので僕は別に何もありませんと答えるのですが本当はちっとも何もなくないのです。僕の答えに納得した彼はそれでも僕を待っていて僕が一緒に歩き始めるとやっと笑うので僕は吐きませんがため息を吐きたくなります。彼は無用心に僕に近づきすぎるので僕はいつもどきどきと音を立てて壊れていきそうな心臓を宥めつけなくてはいけないのです。僕は彼が好きなのです。しかし彼はそんな僕の気持ちにはまったく気付かないので簡単に僕の隣に来るのですが彼に気付いてもらいたいと思う反面で絶対に気付かれたくないと思っている僕もいるので僕は彼が傍にいるととてもおそろしいのです。黙っているのがつまらなくなった彼は僕の頭をぐしゃぐしゃとかき回してきては僕はいつも心臓を吐き出してしまいそうな感覚を味わってしまいます。しかし止めてと言うには僕は彼の手を好いてやめて欲しくないのです。何か言わなくてはと思っていても口を開けば何を口走るのか分かったものじゃありません。しかし嫌な顔をしてしまいます。僕の不安なんてものは彼には一切関係がないのだから仕方がないのだけれどそれはとても悲しいことではないのかと思ってしまうのです。悔しいのです。楽しそうに笑って手を離す彼が途端に憎らしくなり何かを考えている暇などないまま彼の袖を引っ張っていて後悔しながらそれでもそれこそが正しいと思っていました。嗚呼止めてください。どうしたなんて聞かないでください。そんなこときいてくれるな。僕は彼が本当に好きなのです大好きなのです。そして僕は知っているのです。彼が僕以上に純粋に僕のことを愛していてくれることを知っているのです。それでも彼はその純粋さに守られているのでどす黒く浅ましいだけの僕の気持ちにも彼自身の気持ちにも気付かないのです。彼の清純さは彼が今のように純朴しぎるままに生きているからこそ生まれるものであり気付かせてしまって消え失せさせてはいけないので僕は口を噤みます。それでも影である僕のもっとも後ろ暗くどす黒い気持ちはささやくのです。彼を僕の唯一にしてしまいたいと思っているのなら気付かせてしまえと囁きつづけるのです。彼が僕の気持ちに気付けば彼は僕のものでしょう。僕が彼に気持ちをささやくだけで彼は僕のものになるでしょう。素敵ですね。ですがその誘惑はおそろしいものですから僕は絶対に表に出さずしまい込むのです。それでもちょっとくらい意地悪したって良いんじゃないかと思ってしまったのは僕の意志の弱さです。ねえ火神君僕は君が好きなんですよ知っていましたかと呟いて笑って見せてからびっくりしている彼の表情を見て後悔するのです。僕は冗談ですよともう一度笑って彼を追い越しましょう。なぜなら僕は決して困らせるためにこんなことを言ったのではないのですからお遊びにしなくてはいけないのです。彼は真っ赤になってぶっきらぼうに僕を追い越して早足に立ち去っていこうとするのです。そのときに横目で僕を見た瞳には小さな怒りが滲んでいたのでやはり彼と僕は同じ思いを持っているのでしょう。そして僕は彼の髪と同じ色になった首元を見ながら微笑ましいような幸せな気持ちを感じているのです。しかし同時に僕の暗黒はそのおそろしい気持ちもいつのまにか呟いているのです。


逃がすな、捕らえろ。









火←黒子はきっと頭がいいぶん悶々としているんじゃないかな
野茨の花言葉は"気まぐれ美人"です

拍手[1回]

 今日の火神君は、いつもと少し違っていた。口数が少なく、だからといって不機嫌なわけじゃない。なんとなく静かだった。
 珍しい喋らない火神君は、部活が終わって、みんなとも別れて、それではさようならと言ったらいきなり口をきいた。ただ一言、自分の家に泊まっていけと言う。びっくりしたけど、ただそれは、予想もしていない言葉、じゃなかった。明日がどういう日か僕は覚えていたし、もしかしたらそう言ってくれるのかもしれないと期待していた僕はあらかじめ親に外泊の許可を貰っていた。だから簡単に、そうですね、そうしましょうと言って火神君の家にお邪魔する。火神君は短くオウと言っただけだった。
 食事と風呂を借りて、僕らはあとは寝るばかりとなる。火神君のベッドは大きくて二人で寝ても問題ないんだけど、火神君のお母さんが気を利かせてくれて布団を持ち込んでくれたので、僕らは敷いたばかりの布団に座っていた。火神君は持ってきた水をときおり飲む以外話すことをしなかった。それはどうにも寂しく、僕は零時に送られてくるだろうメールを処理したらさっさと寝てしまおうと小さく決心した。

 ようやく時計が日付の変わる一分前を指したとき、火神君は突然テレビを消してしまった。特に観ていたわけでもないけど、BGMになっていた音が消えてしまうと、部屋の中が一気にしんとなる。こんな静寂の中で火神君までまだ喋らない。何なんだろうかとつい勘繰った。
 取り敢えずもうあと三十秒もないと思って携帯を開こうとしたら、火神君は携帯を僕の手から奪い取って部屋の端に投げてしまった。平積みされている本に当たって大きな音は鳴らなかったけど、がしゃんと鳴いてぱかっと開いて液晶が光った。
 何をするんですか、なんて文句をいう暇はなかった。火神君は僕をベッドに押し倒すとキスをして、同時に耳を塞いできた。いつもなら口内を犯す卑猥な音が聞こえるのに、塞がれた耳にはぼうっとした音と伝わってくる鼓動が、なんとなく分かるだけだった。
 口が離れて乱された呼吸をなおす間も、火神君は僕の耳を塞いだままだ。目の端でメールを受信した携帯が光っていたが、それも見えるだけで音が聞こえない。離してと言おうとしたら、また口を塞がれる。間近にある目が黙れと威嚇するのでしかたなく黙ると、火神君は僕の耳を塞いだまましばらく耳を済ませている。目の端で液晶がまた光った。その光が完全に沈黙したのを確認すると、火神君はやっと手をどかしてくれた。そのまま嬉しそうにゆっくり笑って、さっき携帯に送られてきたメールにも書かれていて、今日何度も言われるだろう言葉を言ったんだ。

 満足そうな火神君に、僕はただありがとうございますと返した。内心は強い興奮状態で、そうなればそうなるほど、僕は恥ずかしくって表情がなくなってしまう。押さえつけられた耳は赤くなっているだろうから、たぶんもっとわからない。
 僕はこんなに強い独占を受けるなんて思っていなかった。火神君は、その見た目通りそれなりの独占欲があるけど、いままでのそれは僕が黄瀬君や緑間君と昔話をしていてたら拗ねるくらいの、わかりやすい小さな独占だった。それなのに、今日はどうしたことだ。
 火神君はあの瞬間、僕が十六年目の人生を受け取ったその瞬間に、それを祝うのが自分でなくては嫌だったんだ。それどころか自分の声以外の音が僕の耳に入ることさえ嫌だったんだ。一切の音を消してしまって、僕が火神君だけを見るようにしたかったんだ。
 ぞくぞくしてしまう。火神君の内面を覗いたためか、また興奮していた。
 改めて嬉しくなって火神君にもう一度礼を言う。今度は笑えた。僕の上で眉を歪めていた火神君も微笑んでくれて、またキスをしてきた。

 僕が届いているはずのメールの返信を許されたのは朝になってからだった。
 先にシャワーを浴びなくてはとベッドから降りるとき、せっかく敷いてもらった布団を使わなかったと思って罪悪感を感じた。
 交代に風呂を明け渡して、三通ばかり届いているだろうと携帯を拾った。受信箱には二十通近いメールが送られていて面食らう。いくつかは朝からのものだが大半が零時周辺に送られていた。中身は祝いの言葉で、たまに再戦の申し込みがあった。後に火神君に問い詰めて、監督の思いつきにより部員全員で零時メールを送ったのだと発覚したが、その時の僕はとても愛されているらしいと実感して嬉しくなっていた。
「誕生日、おめでとう」
 風呂から上がった火神君が、すべての代表のようにまた祝いの言葉をくれる。僕は全員に直接会ってお礼を言おうと決心して、火神君に微笑み返した。





黒子ハピバ!
火神のご両親は一階に寝てるよ、熟睡するからバレてないよ

拍手[3回]



Copyright (C) 2005-2006 SAMURAI-FACTORY ALL RIGHTS RESERVED.
忍者ブログ [PR]
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新CM
最新記事
(01/15)
(05/30)
最新TB
プロフィール
HN:
十色神矢
性別:
女性
バーコード
ブログ内検索
P R