ぽたぽた。
WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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何がきっかけだったのか、たしか、なにか、あったはずなのだが思い出せない。そんな些細なこと。
一瞬でさっと空気が変わった。ざわり、というか、ぞくり、というか。言葉にするとよろしくないが、感じるのは別に嫌な感覚ではない。それはいい意味で通じ合ったということで、むず痒いような、ふわふわしているような、やっぱりむず痒いような、どきどきした感覚だ。 付き合いだして最初の冬、今年最後の部活が終わってから待ち合わせた。いつも通り俺のが早く来ていて、いつも通りにお互いに今日あった出来事をあれこれと話して、寒くって冬だなと思いながら歩いていて。 ああ、それだ。 寒いから、それで、手を合わせたくなって、それだけで心がどきどきして、俺らしくもなくどぎまぎして、口を閉じるともうだめだ。さっきまでなんの問題もなく回っていた唇がもう動かない。じっと黙り込んでしまう。 若松もその変化を感じたみたいで、眉を寄せてマフラーに首を落としてしまった。目つきが悪い人間がそんなことをしたら傍目には不機嫌になったように見えるだろう。 それでも、気まずいわけではないから変な感じ。 言葉が出ないまま歩き続ける。冷えた風が間を吹き抜けるのが寒くて、若松の隣へゆっくりと並ぶ。それは肩と肩が触れ合いそうな距離で、ポケットに入れていなかったら手はとっくに触れていただろう。何も言わないまま二人行きつけの漫画喫茶に足が向かう。 若松が受付を済ませ、俺はそれを黙って聞いている。顔はよく知っているけれど話したことはない受付の男は、ぶっきらぼうになっている若松の態度と、年末という時柄の疲れた様子を見せるものの慣れた作業をてきぱきこなす。 エレベーターがあるのは知っていたけど、必要ないからとゆっくりと階段を登っていく。きちんと鍛えた体にはまったく苦にならない。早く部屋に入ってしまいたいという気持ちと、ちょっと躊躇う気持ちとが会って、自分が緊張しているのがわかる。 「若松……」 「伊月」 「んっ」 ようやく辿り付いた部屋に入ってすぐ、意を決して口を開いた俺と同じタイミング。抱きしめられて口を塞がれる。 体格に差があるまま体を引き寄せられ、振り向いたまま押さえられている肩が若松の胸から鼓動の速さを教えてきた。そっと若松の顔を見上げれば、しかめっ面に見えるだけの、優しくて余裕のない表情。どくどくとした熱さに目を開けていられなくて、舌が動くたびに酸欠状態になりそうで、ぼんやりとしたまま目を閉じる。 一度、唇が離れる。振り向きざまだった俺の格好では合わせづらかったのか、きちんと体を向かい合わされてもう一度。頭の後ろにあった手が動いてきて頬に添えられる。さっきまで外にいたけれどポケットに入れられていたから、手は暖かい。むしろ熱いくらい。 俺はそっと、若松の手に俺の手を重ねる。俺のほうがちょっと冷たいらしく、それだけでじわりと熱が移ってくる。 「……暖房つけようぜ」 「……だな」 ようやくキスが終われば、頬ばっかり熱くて手はまた冷えていて、そもそも上着も脱いでいないという状況に苦笑してしまう。キスしたから変な燻りが出来たかといえばそうでもなく、やっぱりむず痒いような気持ちよさが体中を占めていて、若松も照れくさいのか頭を掻いていて、ジャンバーコートをさっさと掛けて部屋の奥に座ってしまう。 その目が隣を催促するから、なんだか本当に可愛い男だなとまた笑ってしまって。 「飲み物いる?」 「あ? ああ、コーヒーでいいや」 「了解、と。荷物よろしく」 「……おう」 若松が何が言いた気だったけれど荷物だけ置いてさっさと部屋を出る。なんだか悪戯が成功したような気持ちだ。 意地悪したいわけではけではないが、最初に会ったむず痒い緊張はすでに解けていて満足してしまったし、このくすぐったい温かさは熱に埋めてしまうのが勿体無い。もうちょっと、ぼんやりしていたい、俺はそんな温かさに包まれていた。 若松さんがどうしたら幸せになるのかなとか、そろそろ誠凛の先輩方書きたいなとか、誰かいちゃいちゃしろよ!という気持ちの産物 PR
投げたボールはリングにぶつかり、しかし淵を一周して内に沈んだ。一対一、相手だけを見つめつづけているのに予想が外れ、何が起こるかわからないストリートは楽しい。同等ならばなおさらだ、これは黒子とはできない楽しさだ。
今のゴールで得点は黄瀬より二点勝っている。つまり今日は俺の勝ちだ。 「だああ負けたあ」 「うっしゃあ」 「くっそぅ……」 がっくりと黄瀬がうなだれる。後片付けとジュースを賭けた勝負だ、黄瀬の落ち込みは大きい。しかし勝ちは勝ちだ。 「ちぇー……火神っち、さっさと出てくっスよー」 「おーう」 ボールだけは自分で戻してから着替えに向かう。すぐちかくの更衣室に入って、もう少し動きたかったかと首を回した。 今日のことは以前から約束していたのだが、今日に限っていつも使っているコートはどこも空いておらず、ならばと学校まで足を伸ばした。他の学生やら部員やらがいて結局昼間はできなかったため、どうにもバスケットをしたくてこの時間である。午後をいっぱい使ったからといって、今回のように限界まで動いていないから満足ができない。黄瀬のような上位実力者と試合をしていれば足りなくなるのは当たり前だ。 (まあ、次まで待つさ) 黄瀬の予定を確認しねえとと思いながら汗だくの服を鞄につめたとき、明かりを消され、暗さに慣れていない目は真っ黒になる。なんなんだ! とびびって振り向くと、月明かりの中、スイッチに伸びているのは見知った男の指。 「おい、黄瀬え!」 「あっははは」 着替えもそこそこに消えた背中にまったくと軽く舌打ちして追いかける。暗いと言っても校内一角、校舎もまだ照明がついているから完璧に見えないわけじゃない。荷物を掴んで俺も走る。 闇に眩んだ目はわずかな光源を使って影を追いかける。青々とした植え込みを曲がれば構われたがりの悪戯っ子はすぐ見つかった。逃げたくせに待っていたらしい。にっと口の端を持ち上げるから叩いてやった。 「痛いっスよ」 「知るか」 言い捨てると黄瀬もふざけて殴ってくる。避けてやればじゃれるように追ってきた。 校内を完全に出ると、秋口のせいか少し肌寒い。体は走り回って熱いくらいだが、ようやく黄瀬も上着を着た。 「あ」 「あ?」 黄瀬の間抜けな声につられて声を出す。視線をたどって俺も空を見上げる。そうすれば、目に入った月になぜだか驚いた。 「……す、げぇ」 「……そうっスね」 黄瀬から漏れた感嘆は俺より落ち着いていた。 「あれっスね、中秋の名月ってやつっスよ」 やっぱりもう秋なんだと呟く声は聞こえていたが理解していなかった。 月は特別大きかったわけではない。漫画にあるような青白で幻想的といいわけでもない。ただ完璧な円形をしていた。まん丸の黄色い月が煌々と、夏を残した闇に浮かんでいたのだ。 雲は動かず、星はあるが見えない。電灯と、月が明るすぎるからだろう、その周りはわずかに夏の青に染まっている。地面へと降りてくる光は銀と言うよりは白っぽく、照らされたところがほのかに発光していた。光が空気に混じってだんだんと夜の涼しさを広げているように見える。青に黄色。金色。月だけが輝いている。息が詰まりそう、だった。 「火神っち?」 「……すげぇな」 魅了されたみたいに目が離せなくなってしまった。いや、魅了されたのか。アメリカで月は、その美しさから魔性のものとして今でも伝わっている。魅入られるから直視していけないとは祖母から聞かされつづけたことだ。しかし、見てしまったのだから仕方がない。 「月ってこんな明るかったんだな、知らなかったぜ、俺」 「そうっスね」 ぼんやりした感覚で相変わらず眺めていたら、いきなり黄瀬が吹き出した。怪訝に思って月から目を離すと、げらげら笑っている。でも、とか、だってとか聞こえたが笑い声に消されて意味をなしていない。俺が何かしたかと首をひねるがわからない。 「くっく……火神っちが無駄に風流っつか……ぷふははは似合わないっス!」 しばらくしてやっと笑いの収まった黄瀬は俺と目が合った。その瞬間、また大笑いし出す。殴っていた。 「ちょ、痛ったいんスけど!」 「うるせえ!」 「えー!」 かなり恥ずかしい。柄じゃないのはわかっているし、似合わないとも言われたが、腹立つと同時にとにかく恥ずかしい。憎たらしい黄瀬の顔が見えなくて、ジュース買いにいくぞって腕を引っ張る。 「顔真っ赤じゃないっスか! なにそれ火神っちったら可愛いー。ロマンチックきもーい!」 「てんめえええ!」 馬鹿にするならまだしもきゃらきゃら笑いやがって、笑いすぎてて涙まで浮かんでやがる! あご外れっちまえ。 「よーし、とことんロマンチックにしてやろうじゃねぇか」 「まじやめて! 笑いすぎて死ぬっス」 「上等だろ」 「うお!? え、火神っち?」 腕を更に引っ張って壁に押し付ける。 「ちょっと、今のまじなんスか」 「……」 からかって終わるはずだった。だが、追いこんだ黄瀬が思いの外、白くてびびる。月明かりだからだろうか、赤味がなくて綺麗に白っぽく光っていた。 俺がしゃべらないからか、黄瀬が顔から笑顔を消していく。まだ口に少しだけ残っているけれど、視線が揺れて戸惑っているのがわかる。なのに俺は目が離せない、声が出せない、何も考えられない。おかしいくらいに頭の中が真っ白だ。 そのまま俺は黄瀬にキスしていた。 「――」 「……っ」 黄瀬が目を見開く。間近にある眼球は明るすぎて虹彩が揺れるのすら見える。揺れたその光がまた、月のように思えて、焦れたように頭が熱くなる。なんだろうか、また魅了されたのか。沸き上がった感情が何かわからない。ただ、握りしめた手首は思ったより太くて頑丈だ。 月ははるか高くにある。これは、おそらく、月のせいだ。月が、明る過ぎたのが悪い。月が綺麗だったからだ。 すべて、月が悪い夜だった。 もはや冬です!秋に間に合わなかった名月記念です!今夜も月が綺麗ですね!(笑)
けたたましい電子音で、試合は終了した。けど、そんな音が彼方に聞こえる。
しばらく呆けて、そのうち、負けたんだと思ったら、涙が出た。 「……あれっ……あれ……」 負けた。負けちゃった。 初めて、負けて泣いた。 ああ、どうか。 どうか話を聞いて下さい。 くだらなくて、どうしようもない、何処にでもあるような事なのですが、どうか。たった一人の人間の話ですが、聞いてほしいのです。 私は今日、失恋しました。 私には好きな人がいます。とても可愛らしくて、とても強い子です。勇ましいと言っても差し支えないでしょう。他の人が口々に無意味と言う彼の才能は、しかし私には到底真似できない高尚な才能なのです。 私は何時からと言うでもなく、彼に恋し、慕っていました。彼の傍には他にも素晴らしい才能を持つ者がいましたが、恋慕とは偉大なもので、彼がいるだけで私は世界のすべてが輝いて見えたのです。 私は今日、彼の隣に立つ者に、ひどくひどく悪意を持ちました。私になかったものを持っているらしいその者に負けることだけは嫌でした。また、選手としてのプライドの上でも、三年間培ってきた技術の上でも、新参者に負けたくないと思っていました。 しかし何より、私の愛している人を好いてもいない者に負けるのが嫌だったのです。 そうです。私が彼を想い続けている今も彼の隣にいる相手は、彼を好いていないのです。 好意はあります。しかし恋愛感情ではないのです。 私が彼と共にいた三年間は、楽しく素晴らしかったと簡単に言える物ではありません。彼はその三年間を疎み、倦厭するように離れていったのですから、尚更でしょう。 それでも共にいたのです。私が想い続けた時間があったのです。 永遠の運命の赤い糸を信じていたわけではありません。しかし、目先の幸福だけを望んでいたわけでもありません。 私は常に彼を愛していましたし、彼と同じく特異であったと思います。彼と同じ存在である私以上に、彼に近づける者はいないのだと思っていました。 この思いを口にできれば、そう思った事もあります。 ですが私にはできませんでした。私はその告白により、拒絶であれ受諾であれ、彼の特別になることを恐れていたのです。 なぜなら私は己の感情の醜さを知っています。利己的で自己中心的な心の内を知っているのです。だから誰かの特別になることをよしとすれば、私はその幸福を保持するために誰かを食い殺してしまうでしょう。私は臆病なのなのです。 その結果、私は光を失ったのです。 ええ、そうです。影であるという彼の方が、私にとっては光だったのです。彼の消失により私の世界は輝きを失いました。私は彼がいなくてはいけないのです。 先程、彼に会ってきました。 そして、まるで呪詛を掛けるように、彼の新しい希望の才能を讃えて気持ちをなじりました。そのせいで彼が傷付くとわかっていて、告げるのです。彼に、同じ事を繰り返しているだけなのだと知らせたかったのです。 しかし、意味がなかったのです。 私の愛する人は、私の今までを否定して彼を信じました。傷付くことになろうとも構わないと言うのです。彼を探していた新しい光は、道を違えるはずないと言うのです。 愚かにもその時、彼らが信頼しあっているのだとわかりました。そこには私の恋のような私情の混ざった感情は一切ないのです。純粋にバスケを楽しんで、バスケを愛しているのです。 どうぞお笑いください。私は今日、試合に負けて、始めることも出来なかった勝負にも負けたのです。 「……つっ……あーもう……」 どうか私の心臓の奥からの声が、これ以上響かない事を祈ります。私はこの思いを口にできればと、いつもそう思っているのです。しかしそれはならないのです。 どうぞ、救いの手を差し向ける事のありませんように。 私はこの恋に止めを刺さなければなりません。そこには慟哭も、献花も献杯もいらないのです。ただただ、覚悟のみが必要なのです。 「……っくしょ……」 さようなら、お別れです。 ここで一人の人間の恋は終わります。 「……ちくしょうっ……!」 私は、貴方の事が好きでした。 イキシア“秘めた恋” アヤメ科の小さな花なんですが、可愛いより綺麗な花だなと思っています
大晦日が特別な日であったのはいつまでだったかと青峰は考える。たしかに特別なことではあるがだが、青峰自身としては新年にたいしてそう思うことがないのだ。居間では先程から、今夜の醍醐味とばかりに紅白が映っていたが、何が流行の歌なのかすらいまいちわかっていないので見る気もない。
ようは暇なのである。家でやることは何もないが、かといって、こんな寒空の中初詣に行くのは嫌だ。黄瀬からは知人全員で行きたいという旨のメールが来ていたが、わざわざ今から行かなくとも明日の昼頃には毎年の如く桃井が来るのだとわかっている。何故かすでに着物を出してはしゃいでいたから、もしかしたら朝から来るかもしれない。 そんな明日の予想に、考えただけで面倒だと小さくため息をつく。女子の晴れ着というのは男子ばっかりの家にはかなり羨ましいことらしく、青峰の母親は桃井が来るたびに大喜びなのである。常々、桃井のような子どもが欲しいと言っている母親は、一度、桃井に対して「嫁においで」とまで言っていた。正直に言って、幼馴染みと結婚する気など青峰も桃井もないのである。笑って誤魔化すしかなかった嫌な思い出だ。 「と、来たか」 気分を変えようと水を飲んでいるとき、インターホンの音がなる。電話した時間も考えて、まず間違いないだろうと玄関に行った。外には案の定、不機嫌な顔をした津川が立っていた。 「よう、早く入れ、寒ぃ」 「わかってるよ!」 押し付けられる形でビニル袋を受け取り、自分の部屋に上がる。後を追ってくる津川はニット帽にマフラーに手袋まで完備していて、非常にもこもことした格好だった。栗坊主がニット帽被ってどうすんだよ思ったが、青峰は面倒になってそれは言わなかった。 随分前から暖房をつけたままにしていたが、人がいないだけで居間とは大違いの寒さだ。外よりだいぶマシだとはいえ冷えていることには変わりない。入ってきた津川も、いつもならさっさと陣取るベッドの上を避けて床に座っている。シーツよりも木目の方が温かそうであるのは、なんとなくわかる。ジャンバーを脱いだ下には太い毛糸で作られたカーディガンまで着ていた。寒がりと聞いていたがここまでか。 「何だよ」 「毛糸でもこもことか、すげぇ似合わねぇな、お前」 「うっさいな、寒かったんだよ」 ジャンバーをやや乱暴に置いて津川はビニル袋に手を伸ばす。中には多くのスナック菓子などが詰まっていた。 「だいたいさ、俺ちゃんと買ってきてやったのにお礼もないじゃん。お前ここでぬくぬくしてたくせに」 「今俺ん家なんもねぇんだよ。なら来る奴が買ってくるのがいいだろうが」 「青峰が来いって言ったんだろ」 「あー、だりぃ、わかったって」 津川からレシートを受け取りながら青峰はしっしと犬にするような動きをした。津川はまだ不満そうだったが、黙って菓子の袋を開け始める。 「一口よこせ」 「えー、ったく、自分で取れよなー」 さっそく横になった津川が思い切り嫌な顔をしてチョコ菓子の袋を持ち上げる。青峰は摘まむ気がないらしく財布を確認しながら口を開けた。津川はため息混じりに菓子を食わせてやった。 「甘いな、これ」 「なんでもいいって言ったじゃん」 「文句は言ってねぇよ。おい、飲み物は?」 「え、買ってない」 「あぁ? てめぇ、何のためにわざわざ電話したんだと思ってんだ」 「知らねーよ! 何でもいいから買って来いっつっただけだろ!」 「普通買ってくるだろうが!」 ぎゃいぎゃいと騒ぐ。しかし買ってくる来ないのくだらないことでいつまでも騒げるはずもなく、青峰が折れた。おごりで買い直しである。 青峰は自分だけ行くつもりだったが、主人のいない部屋にいるのは気まずいらしく津川も買いに行く。ぶつぶつと文句を言いながらジャンパーを羽織る津川に舌打ちして、青峰も昨日から椅子に掛けられていたガウンジャケットに腕を通す。黒いこれは日中のほうが暖かいのだが上着なんて一つだけだ。 「何だよ、それ! 青峰のがもこもこしてんじゃん!」 「はあ? もこもこはお前だろうが」 「えー絶対ぇ青峰のがもこもこしてる!」 「もこもこしてねぇよ!」 マフラーを巻きながら津川が食って掛かる。コンビニまでの距離を考えてしかたなく暖房を消しながら、青峰も応じる。居間を通るときだけは静かになるが、外に出たら寒い寒いとまた騒ぎ始める。 年の暮れも、変わる瞬間も、二人は変わることがなかった。 根本はいちゃいちゃな青津。 この後買い物ついでに初詣してくるんだけど、orz
じとじととした梅雨の時季、たまに晴れれば動きたくなるのは当たり前だ。特に黒子や火神のように若いスポーツマンにとって体を動かせないことほど苦痛となるものはない。
実際にはつい先日も試合だ練習だと明け暮れており体を動かしていなかったわけではないが、やはり太陽の下でおもいきり動かせるのは気分が違う。雨に洗われた草木の色も気分を高揚させた。 「んで、てめぇがいるんだよ」 「ああ? 文句あんのか?」 「あるに決まってんだろが、ウゼェな」 そして好きなことで貯まったストレスを発散しようとストリートバスケに及ぼうとしていた。だが、同じように鬱屈とした毎日を過ごしていただろう彼らもこの日を見逃すはずがなかった。運悪く青峰と津川の二人組みと出会ってしまい、黒子が挨拶をしてすぐ火神は青峰とにらみ合いである。 「どけよ、お前なんかがやってたら怪我するんじゃねえ?」 「あ? 寝ぼけてんじゃねぇぞ」 「こっちの台詞だ」 なんという喧嘩腰だろうか、しかも二人ともうれしそうにしているのだ。 「やるか」 「上等だ、負かしてやらぁ」 羽織っていた上着をお互いぱっと投げて二人はコートに向かう。格好付けめ。かろうじて受け取った上着を適当に畳みながら、まったくどうしようもないと黒子は嘆息する。口では仲良くする気などないと言っているのに、実際は同等に戦える相手だと知っているためにうれしくて仕方がないのだ、この二人は。 邪魔する気はないと日陰に足を向けたら、青峰の向こうで口を尖らせて仏頂面している津川に気付く。自分たちのデートが邪魔されたからか、それとも青峰の反応が案に違う方向へ進んでいるのか、なんにしろ不満らしい。当たり前だ。恋人が自分から意識をはずしてばかりいて面白いものがいようか、いやいまい。本当ならば抱きついてでも引き離したいのだろう。黒子自身そうなのだから、きっと。 しかし津川でさえ自重しているのに、いわんや黒子においてをやだ。臨戦態勢の二人を相手にするなんてしたくない。そもそも殴るならまだしも抱きつくなんて柄にもない。 木陰に座ってコートを見遣ればバスケットボールを追って火神と青峰はいまだにらみ合っている。そのくせ動きは滑らかで流れるようで、まったくもってつまらない。そもそも楽しんでいる二人は二対二でやろうかとは思ってくれないのだから待っている黒子は暇で仕方ないものだ。 「なんで俺ら、あんなのが好きなんだろーね」 再び嘆息しようとしていた黒子に津川が近づいてきた。手に持っている青峰の上着は袖が地面すれすれにある。指摘しようかと思ったが、その前に津川は黒子の隣に腰を降ろしたのでやめた。 「青峰君が好きなんですか?」 「だったら何だよ」 「……いえ」 「あーあ!」 座ったまままるで背筋するように津川は後ろに伸びる。反対に地面に押し付けられている上着に少し同情めいたものが湧いた。雨上がりの青草は落ちにくいのだ。 津川はしばらくんーっと筋肉を伸ばしていたが、はあと脱力して前屈みになる。ちょうど青峰がダンクシュートを決めたところだった。笑い声と悪態が遠く聞こえる。 「……バスケしたいなー」 「混ざりますか?」 「ええー、やだよ」 即答され、わかるだろうと忌々しげに一瞥される。まあ、わからなくない。 二人とも黙ってしまうと、なにやらしんとしてしまって恋人の騒ぎ声すら遠くなったように感じる。季節はまだ梅雨が明けておらず、久しぶりに見た太陽の日差しと若い草木は夏になっているがいまだに夏のにおいはしない。しかも薄暑の今日はじっとりと蒸し暑く、木陰にいてもすこし汗をかきそうだ。もっとも、風のつよい日なので幾分涼やかなほうだ。 ふわっと黒子を通り過ぎていった風に目を細める。湿気を含んだ風はぬるいが、空気がすこし冷える。やはり夏のにおいというのは感じられず、その代わりに言葉としては聞き取れない声が混じっていた。目を開ければ今度は火神がリングにぶら下がっていた。近いうちにあのリングは壊れてしまうに違いない。 「なあ、なんでたいく座りしてんの?」 「はい?」 不思議そうに言う津川を向けば、津川の顔は黒子よりすこしだけ後ろにある。日向のほうばかり見ていたからか、一瞬目の前が緑に点滅してくらりとした。 「いや、たいく座りしてんじゃん、暑くなんない?」 「はあ」 目を強くつむって視界を慣らす。まだかすかに緑や黒がちらつくものの、先程よりは回復してくれたようだ。 彼の言っているのは体育座りのことだろうかと黒子は自分を見る。まあ、そのような形であるが別に意味はないのだと答えて、津川を真似て足を伸ばす。手を後ろにつくと火神の上着が落ちてしまいそうになったので腹に抱えなおした。 「あーあ、暇!」 「そうですね」 「絶対俺たちのこと忘れてるよ、あれ」 「はい」 青峰から誘ってきたのにとぶーぶー文句たれる津川に、やはり青峰と火神は似ているのだなと呆れた心持になった。黒子は火神に誘われてここにいるのである。つまり二人とも同じ行動をするくせにお互いは気が合わないのだ、犬猿の仲というものだろうか。 湿ったぬるい風を再び受けながら、体勢を戻す。後ろ手をつくあの姿勢は存外疲れるのだ。 なぜ自分が二人のことをつらつら考えねばならぬのかと眉間に皺を寄せたとき、ふと先程の質問を思い出す。津川はなぜ青峰が好きなのだろうか。 こう言ってはなんだが、青峰は傍若無人で我侭だと黒子は思っている。もちろん素直で実は優しいことも知っているが、基本的に自分を中心に置いた考え方なのだ。津川も我が強いので二人が恋人として付き合えているが不思議だった。 「あの、好きなんですか、青峰君のこと」 「え? うん」 「どういったところが?」 津川がぽかんとする。分かりにくいかと理由を加えると、ようやくああと考えはじめた。しかし、しばらくもせずに不機嫌な顔をする。 「あんまないかも」 「そうですか」 「うん」 ぐっと津川も体を起こす。彼の手に握られたままの青峰の上着はようやく地面から浮き上がった。津川はそれこそ体育座りのように膝を抱え、我侭だし、俺様だし、殴るし、暴力的だしと青峰への不満をいう。ボキャブラリーが少ないのか意味は重複するが、よくもまあ出るものだ。 それでも口を尖らせて言うその表情は拗ねているらしいもので、黙って聞いていればしばしの沈黙を挟んで、でも格好いいのだと続く。自分から振ったのだが惚気られてしまった。 「そっちこそなんで好きなんだ、火神」 「なんでと言われても」 「絶対バカじゃん。バスケバカ。バ火神」 「はい」 黒子が火神を好いていること前提で話を進めているが、そこは事実なので構わない。そして散々な言われ様だが黒子に否定のしようがない。火神の猪突猛進や日本人離れした行動にため息が出ることはあるし、何より好きなことに熱中して蔑ろにされるのはよくあることだ。構ってもらえないし、恋人としては不平不満もある。 それでも、好きになった理由など言わずもがなだ。 「かっこいいところ、でしょうね」 「あっそ」 津川は呆れたように応じ、二人して一緒に吹きだした。お互いに趣味が悪いそっちの方が悪いと笑い合う。 しばらく笑ってはあと息をつくと、また二人の間には沈黙がおりる。それは別に居心地悪いわけではなく、むしろ何だか気楽だ。思えば最初からそうであった。 「ね、二人にアイス奢らせようよ」 「どうせなら昼飯から全部です」 「あはは、いいね!」 熱い光の中から怒鳴りあっているような声が聞こえ、構われない腹癒せに木漏れ日でイタズラめいたことを考える。バスケットをしている姿は格好よくて好きだが、構ってほしいのも本当なのだ。火神はすこし黒子を気にしつつ、青峰は盛大に文句を言いつつ、きっと言うことをきいてくれるのだ。 「何食べよっかなー」 「冷房のあるところがいいです」 目も合わせないでくっくと笑う。滲む汗を拭いながら、たまにはいいかなと思う。蝉はまだ鳴かない、梅雨晴れの午前中。 黒子ってきっと体育座りする |
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