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ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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 光と影が出会ってから一年が経った。正しくいえば季節はまだ冬で、新しい春を迎えていないから一年も経っていない。僕らはまだ、出会って間もないと言えるかもしれない。
 一年。とても短い一年だった。だというのに火神君は、僕の新しい光は昔の光をすべて打ち消してしまった。黄色の反射するような光も、緑の透き通ったまっすぐな光も、青く真昼のような光も、すべて。みんな打ち消してしまうほど彼の光は強く輝いていた。彼は光と一緒にその下にできた影も消している。
 影はない。一番光っていた青い光は消え、その影であった僕もかき消えている。
「かがみ、くん……」
 彼はまぶしい。くらくらするくらい光っていて強い。
 彼の光は輝きを増していく。自らの足下まで照らしていくくらい光っていく。灯台のように影を作る土台すらなくしてしまうだろう。彼はきっと太陽だ。
 いつか、彼の光があの赤い苛烈な光も紫の巨大な光も消し去ってしまったとき、僕は影として存在しているだろうか。いや、きっと消えてしまっている。消えてしまう。
「火神君……いきましょう」
「おう、いくぞ、黒子」
「はい」
 まぶしい光は視界を白く焼いてしまう。だから僕は不能グレアを起こして失明する。盲目になる。
 消えてしまっても構わないと思うほど、影は光に焦がれている。






中学キセキで書こうとしてたけど、かがみんが青峰に勝ったので急遽路線変更。
不能グレアは、まぶし過ぎると何も見えなくなるってことです。医学用語

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 カーテン越しの朝日が、ぼうっとした頭を温めていた。目覚し時計は二十分ほど前に止めていて、文字盤は見えるが意識として入ってこなかった。
 普段なら、そろそろ起き上がらないと朝錬に間に合わなくなる。でもそれは昨日まで。この時期は特段朝錬をしなくてはいけないほどことはないし、大きなイベントの後には、学校だってだって休まなくてはならないだろう。尤も、朝錬があったところで今の俺は行けないんだが。
「……なんで、おれ……、言っちゃったっスかねー」
 ぼうっとした頭がそれでも信号を出して、口からは声が出た。それによって少し意識が戻ってくる。自分の声で覚醒するなんて変だけど、もともと寝ぼけていたわけではない。むしろ一睡もしていないんだ。
 昨日、三年生が卒業した。
 たった一年の付き合いしかないと言っても、入学したばかりで右も左も分からなかった俺たちを引っ張ってくれたのは三年生だ。委員会も部活も行事も、三年生が中心だったように思う。式の最中に号泣してしまう友達も大勢いた。
 そのうえ誰かに恋慕していた人は、もう、最悪。付き合っていた者も別れた者も、せめてもの想いを打ち明けた者も仕舞い込んだ者も、これでお終いと泣いていた。一方的に慕っていたからか、俺は泣かなかったけど。
「……おれ、ほんとバカっスね……」
 ただ、一応俺も告白したんだ。伝説の桜の木なんて海常高校にはないから、帰る途中で、ぽつりと。
 思わず言っちゃったって感じじゃ、なかったんだ。好きだから伝えられるだけでいいやって、断られる前提で告白したんだ。なのに。

『……、明日まで、まってくれ』

 あの人は、そう言ったんだ。
 どうして、そう言ったのかは分からない。本当に分からない。咄嗟に出ただけだとか。傷つけたくなかったとか。ちょっとは、期待してもいいのかとか。考えたけど分からない。
「……バカだ……」
 でも、これは失恋だ。欠片さえ残らない玉砕だ。
 だって、明日は来ないんだから。
 先輩は卒業して、俺との今までは、昨日で終わってしまった。みんなの涙のとおり、これでお終い。昨日がすべての終止符だったんだ。
 思い出して、再び実感して、涙が溢れてきた。昨日あれだけ泣いたと言うのにまだ枯れないらしい。いつまで溢れるんだと思うが、手で拭っても枕に押し付けても止まる気配はなかった。


 秒針が更に十五回回ったとき、携帯が鳴り始めた。この着信音に設定した人は一人で、その人にこれから会えなくなるのだと思うと、やっと止まった涙腺はまた決壊しそうだった。
「……もしもし?」
 それでも何とか押さえ込んで携帯を耳に当てる。いなくなってしまった人は朝早く悪かったと言って、悪いついでに外に出てきてくれと言った。家の外でいいと言うので、何事かと中途半端に閉めていたカーテンを開くと、眼下に先輩がいた。見上げていたのか目が合って、手を振ってくる。
 慌てて降りた。すでにキッチンにいた母親が驚いて止めてくれなかったら、パジャマのまま飛び出していくところだったから相当だ。なにしろ春になりつつあるといっても、三月の朝はまだ随分と冷え込んでいるのだから、せめて何か羽織って行かなくては風邪を引いていただろう。
「笠松先輩っ、何スか!」
「お、おう。ちょっと落ち着けよ……」
 手櫛で跳ねた髪を直しながら向かうと、先輩は少し引いた。
 それから、ちょっと眉を寄せる。何かしたかと思って焦ったら、目が腫れていると言われた。
「え?」
「お前擦っただろ。赤くなってる」
 言われて目元に手をやると、たしかに少しヒリヒリする。擦ったつもりはなかったが、何度も何度も拭ったから、こうなったんだろう。
 はっと、泣いたことが丸分かりになっているんだと気付いて、慌てて大丈夫だと言ったが、声まで枯れていてますますバレてしまった。笠松先輩はいつものとおりため息をついた。近づいて撫でてくる。
「黄瀬、またお前、俺に振られたとか先走って結論出したんだろ」
「……っ」
「図星だな。ったく、馬鹿だなお前も」
 なんでもないように笠松先輩は苦笑する。それは今までも何度も見ていた笑顔で、昨日で終わってしまっていたから、泣きそうになったけれど見惚れていた。
 どうしてこの人は、簡単に昨日を忘れさせてくれるんだろう。俺には一生理解できない力が働いているみたいだと思った。
「あのな、昨日は俺も気が動転してたんだよ。まさか先に言われるなんて思ってなかったから、思わず帰って、そりゃ勘違いもするよな……。おい、何呆けてんだよ? 俺の言ってることわかるか?」
「いえ……」
 さっぱり分からない。そんな、俺に都合のいいことが起こるなんて信じられない。
「……だって、明日は、来ないはずっスよ……なのに」
「何言ってんだよ、俺はちゃんと答えるって言っただろ」
 言ってないと思う。たぶんだけど、言ってない。
「だって、昨日で終わりだったじゃないっスか。だから明日は来ないから」
「いや、まじで何言ってんだ?」
「……あれ?」
「……まあ、それはどうでもいいだろ、今は。それより黄瀬」
 笠松先輩がまた笑う。

「俺はお前が好きだ。だからこれからも毎日付き合えよ?」

 言われたことは反芻さて、しばらくして、赤面する。頬がかあっとなったんだって自分でわかって、両手が必死に隠した。
 見てた先輩は笑っていたけど、そのうち驚いて、困った声を出した。
「泣くなよ、お前……」
 ちょっと謝りたくなったけど、声はますます掠れていて、俺はしきりに頷いた。涙を乱暴に拭ったら、先輩に叩かれた。






今年度の三年生卒業おめでとう!

あえて今日を消して書いたのですが、読みづらいことこの上ないですね。すみません!

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 拳を握ると、普段そう言う意味で鍛えていなくても、力の入った手は硬くなる。だがそんなのは当たり前で、しつけのために父親は拳を振り落とすし、恋人は甘えるために拳を振るう。歓声と共に振り上げた拳は清々しく、悔しさに固めた拳は神聖だとすら思えた。
 一方で、殴るという行為は、ひどくひどく暴力的なイメージしか与えなかった。



 ごっと、肩に鉄拳が叩き込まれる。痛いと思う前にむかついて、逆から飛んできた手を避けて近づいていた若松の顔に頭突きをかます。若松はくぐもった呻き声をあげた。
「いってぇ……」
「だぁっ……くそっ」
 別に俺たちは格闘技ができるわけではないから、ケンカの様子は無様でかっこ悪い。終わり方も陳腐で滑稽。頭突きした後、お互いに倒れて動けなくなった。
 どのくらい殴り合っていたのか。小一時間はやっていた気がするし、体力には自身があるのにここまで動けなくなっているのだから、もっと経っているかもしれない。確認したくとも倒れた体勢からは時計は見えない。若松しか見えない。
 思い切り舌打ちを鳴らす。いつもの如く遅れて、それでも今日は部活をやろうと来てみれば、若松が不機嫌だった。原因は知らないし、たぶん俺のことじゃなかった。それでも不機嫌な奴がいると空気が悪い。一気にやる気がなくなって帰ろうとすれば、そういうとこを目ざとく見つけるのだ、この男は。
 文句。次いで罵り合い。終いは殴り合いだ。他の部員は全員逃げてしまって、体育館は俺たちだけになる。だからって殴りすぎだ。顔も身体もじんじんと痛く、下手したら裂けている。
「ふざけんなよ、アンタ。ボーリョク反対~」
「ンだと……」
「んだよ、ふざけんな、マジにダリィんだよ」
 鬱憤がたまってんのがお前だけだと思うなよ、くそったれ。教師に見つかればインハイ出場停止、停学に退学だ。ただでさえ態度が悪いと目を付けられているのに、文句しか湧いてこない。
「言うじゃねーかい、アホ峰。元はといえばお前のせいだろ」
 ぎりぎり届くのか、若松は倒れたまま蹴りつけてくる。その無駄な体力はどこから生まれてくるんだろうか。口の中も切れてあるらしく、こっちは話すのは億劫だった。
「アンタのせいだろ……」
「ざっけんな! 殴ったのはお前が先だろ!」
 違うと言い返す。少なくとも、殴る目的で拳を握ったのは若松の方だった。
 人は、殴るためにも拳を握る。虐げたいから、従えたいから、壊したいから、無くしたいから。どんな理由があれ、それはただただ暴力的なものだ。しつけでも悔恨でもない、暴力のために作られる拳は痛く凶暴で周りを蹂躙する。受けた相手は、壊され、へし折られ、砕かれ、崩され、絶望する。
 それはまるで、俺のようだ。それが嫌だった。
「おいコラ、何沈んでんだよ。俺のせいか?」
 起き上がった若松が訊ねてくる。俺はもう答える気力もなくって、ただ黙って寝転んでいた。若松はしばらく文句を垂れたが、俺が反応しないと不意に頭を撫でてきた。
 びくりとした。傷に障ったのもあるが、それ以上に意図がわからなかった。何事かと固まったまま見上げれば、若松は苦笑した。
「……面倒なやつ」
 若松が呆れた声を出す。だから、どうしてまだこの男には動くだけの体力があるんだ。ふざけるな。面倒なのは若松の方だ。
 頑固者で見た目どおり乱暴者。哀れみだか正義感だかなんだか分からないものを持ってて、ガキのようにそれを大声で喚いて押し付けてくる。なのに、こうして歳上風を吹かしてくる。
「……ふざけんなよ」
「うっせーよ、少し黙っとけ」
 腹立つ。だが普段使わない筋肉を使ったのか、異様に疲れてとても眠い。言い返す体力もない。もう寝てしまえと思う。さっきまで硬く握られていた手が髪を乱すのは鬱陶しいが、ぼさぼさになるほど髪は長くないし、ここまでぼろぼろになっていれば、気にならない気もした。
 小さく息を吐くと瞼は簡単に落ちてきた。目を閉じる直前、やっぱりと思い直し、撫で続けられている手を叩いた。







傀さんに捧げた祝い品2つ目

青峰のバスケは暴力的。嫌いだけど変えない、変えられないジレンマを抱えてそう

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つまんねぇ。今日もつまんねぇ。つまんねぇ、つまんねぇ、つまんねぇ。誰も俺に勝てない。誰も俺と並べない。つまんねぇ。こんなモンだったのか。高校に入ってからのバスケも、他校の力も。思ってたより願ってたより断然弱い。誰も俺を止められなかった。挑むだけ挑んで、途中で諦める。諦めるのが許せない。こんなの楽しくない。こんなの望んだバスケじゃねぇ。つまんねぇ。

「おいッなん帰ろうとしてんだよ、ミニゲームあるんだぞ!」

誰だっけ。ああ若松だ。若松、先輩。ああダリィ。うざい。めんどくさい。あんたには関係ないだろ。練習とかしたら周りの奴がバスケする意欲なくしちまうのに、誰がするか。絶対しない。そんなことになるなら一人でストリートバスケでもしていた方がマシ。部活にいない方がマシ。だいた俺たちに全体練習なんて無意味だろうが。

「んなこと知らんわ。おい、聞いてんのか、青峰!」

ダリィ。なんなんだよ、本気でダリィ。いなくて大丈夫だろ。俺より弱い奴らが楽しそうにバスケしてるのとか、本気でイラつく。けど俺が入ったらつまんねぇんだ。弱い奴とやったって面白くない。ここの奴だって弱い。強いはずなのに弱い。あんただって弱い。あんたは嫌いだ。知ってんだよ、あんたが俺のバスケを嫌ってんの。たしかに俺が異常なんだろうさ。誰も俺に勝てない。皆諦める。怖がる。恐れる。けど仕方ねぇよな。一分の可能性もなくなるんだからな。一方的だからな。けど俺もつまんねぇんだよ。弱い奴とやっても楽しくねぇんだよ。つまんねぇの。だからって俺からバスケは奪わせないからな。俺がやるバスケを奪わせないからな。誰の心が折れようが知らない。俺がやりたいバスケを邪魔すんな。

「……たしかに敵だったらお前のバスケのせいで心折られたかもしんねーけどよ」

ほら見ろ。そうなるんだ。つまんねぇ、つまんねぇ、つまんねぇ、つまんねぇ、つまんねぇ、つまんねぇ。あんたは弱い。あんた嫌いだ。簡単に折れる心でバスケができるかよ。嫌いだ。全部鬱陶しい。だりぃ。面倒だ。

「お前を怖がる理由じゃねーだろ、それは。味方を怖がるわけねーだろ。ウチが強くなるにはお前が必要なんだよ、分かってんのか、コラ」

うぜぇ。マジで鬱陶しい。腹立つ。偽善がよ。ふざけんなよ、オイ。仕方ねぇな、またゴール壊しちまう。うっせぇよ。ああ、ほら。つまんねぇ。あんたは弱い。弱い奴とやりたくない。抜けられときながら……ッ!?

「……させっかよ、寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ」

掠った。触られた? ボールは入ったが、いま触られたか? わかんねぇ。俺が持っていたボールに触ることなんてできやしねぇはずなのに? 何だ、何でだ? ああ、感化されたのか。感化されて、開花したのか? もしそうなら、それは、なんだ、ひどく、楽しいじゃねぇか。

「あのなぁ、青峰」

うるせぇよ。俺はいま楽しいんだよ。ああでもダリィ。嫌だ。開花したら周りが勝てなくなる。帝光と同じになる。そりゃごめんだ。つまんねぇ。けど、いいじゃねぇかよ、オイ。なんだ。しゃべるな、聞きたくない。楽しいじゃねぇか。んなときに聞きたくない。腹立つ。面白れぇ。なんだよ、近づいてくんな。楽しい楽しい楽しい。嬉し――……っ!?

「俺、個人的にお前をめちゃくちゃにしたいと思ってんだわ。だから、あんま調子乗んな」

――――ッ!? なんだ? 何をした? というより何でした? 何で何で何で。なんで。あつい。どうしろっていうんだ。何で俺に。どうして。どうして。どうしようか、あつい。苦しい。どうしたら、どうしたらいい。

「青峰ぇ! さっさと来い!」

やめろ。呼ぶな。あつい。苦しい。どうしろっていうんだ。ふざけんな。ふざけんなッ!



傲慢
(何でこいつら部活にきて殴り合うんねん)









友人(コールラビの傀)のサイト開設祝い
青峰が一番にキセキの世代として開花したなら、たぶん誘発させる事も出来るだろうという妄想。

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 帝光バスケ部は部員が多かった。その中でレギュラーになれるのは本当に数人で、皆三年間、そこを目指して励んだ。指導監督は部長だろうと新入生だろうと構わずに使ったし、入れて勝てるなら何度も出した。青峰はすぐに見出され、その才能が開花していくにつれて、俺たちをレギュラーにするのが当たり前になっていた。
 しかし、上級生には面白くない。不真面目な気持ちで部活に参加しているものは一人もいなかったから学年が上がれば同級生も同じ気持ちになる。だから、後にキセキの世代として他から一線引かれてしまうまで、嫌がらせの対象には、よく俺がなった。


 バシャッと、水浸しになった制服を絞りながら昔のことを思い出す。自主練を終えてみれば制服がなくなって、せこい手口だと思うが、これでもう三度目だ。見つかったのだから、今回はまだ良い方か。ユニフォームを狙わないあたり、相手もバスケは好きらしい。入学したての一年生にはまだ恨まれていないと思いたいから、三年生か、二年生か。誰にせよ、俺なんかにに奪われたら、悔しいんだろう。
「うぇえ、気持ち悪いっスね、もう……」
 夏だからといって、夜中である以上、放っておいても乾くはずはない。仕方なしにシャツに腕を通すと、背中からぞっとする冷たさが伝わってきた。運動した後の身体にこれはきつい。
 ため息が出る。たぶん海常でも起こると覚悟していたが、いざ起こるとやはりショックだった。心の何処かで、ここは帝光ではないから、違うからと思っていたらしい。
 しかし、変わらないのだ。何処だろうと、特異な能力を持つ者は炙り出され、弾かれる。例えそれが、キセキの世代で一番弱いだろう俺でもだ。周りからすれば恐ろしく、嫌味な存在なんだろう。
「……寒」
「そりゃそうだろ」
 誰もいない更衣室から返事が返ってきて、思わず体が硬直する。振り返れば笠松先輩がいて、悲鳴を上げたら蹴られた。
「お前、それどうした」
「そ、それがっスね……、水飲もうとしたらすっ転んで、手洗い場に突っ込んじゃったんスよ。着替えはないし、けど冷たいなぁ、て」
「……そりゃそうだな」
 笠松先輩があきれて項垂れる。そうですよねと答えながら、嘘をついたことに胸が痛んだ。何かと俺を気に掛けてくれる笠松先輩に嘘をつくのは、嘘をついているのは俺なのに、手酷く裏切られた気分だ。
 だが、話すつもりはない。かっこ悪いとかじゃなく、単純に嫌だ。話せばこの人が何らかの手を打つんだろうから、部内の空気が最悪になるし、機嫌も悪くなる。告げ口の代償は大きく、巡って俺に返ってくる。それは嫌だ。
「それ着て帰んのか?」
「そうっスね。あ、先輩の服貸してくれるとか?」
「んなもん無ぇよ」
「そうっスよね……」
「なあ、それマジに転んだのか?」
「ちょっ、笑わないで下さいよ~」
 はははと笠松先輩が笑う。俺も笑うけど、気持ちとしては一刻も早く帰りたかった。背中は気持ち悪いし、居心地悪い。なのに笠松先輩が出入口で立ち止まっているから出られない。
「……あの~」
「んなわけあるかあっ!」
「あいてッ!」
 いきなり怒鳴られて足蹴にされた。ごめんなさい、笠松先輩本気で痛いです。
「黄瀬、正直に答えろ。誰がやったか目星はついてんのか?」
「せ、せんぱい? えーと、何か勘違いしてないっスか……?」
「黄ぃ瀬ぇ?」
「すいません知りません分からないっス!」
「庇うなよ?」
「いやいや本当に知らないっスよ!」
 胸ぐら掴まれてば身長の差は関係なくなる。変な感じに腰が曲がって痛い。間近で睨まれるとつり上がった眼光の鋭さに泣きたくなる。
 笠松先輩はしばらくして、掴んでいた手を離してくれた。座りこんで、それからは黙ってしまう。ああもう、こうなるから嫌だったんだ。
「あの~、気にしないでいいっスよ? 覚悟してきましたし」
 必然性というものはある。青峰にケンカ売るようなバカはいなかったし、黒子は存在を忘れられることが多かった。キャプテンは対象外だっただろうし、緑間は占いによって色々と護られている。それに比べて俺は、ケンカは弱いのにやたら目立ってて、そのくせ意地を張る。モデルと並行させていて、責め立てる理由もある。一番狙いやすいタイプだ。もちろん俺も、やる方だったら確実に俺を狙う。
「我慢できなくなったら俺だって言うし、やり返すっスよ。何よりこんなことで俺からバスケを取り上げるのは無理っスからね」
 それでも辞めない。モデルとバスケを天秤に掛ければ迷わずバスケを選ぶ。バスケしか能がないと言われればそうで、それを分かっているから、俺が本気で挑むことは諦めない。屈することはない。
「大丈夫っス! 俺も暴力振るわれたことはないし、そんなことになったら叫ぶし」
「……」
 ゆらりと笠松先輩が立ち上がる。また怒鳴られると思って目をつぶる。
 いやに冷静な俺の一部は、怒鳴られれば笠松先輩に感じていた安心や信頼が揺らぐだろうと笑っていた。否定する俺はいない。何を言われても、俺には偽善に聞こえるだろう。
 笠松先輩が動く気配がした。そのまま肩を殴られた。
「あいッ!?」
「よし、ならやれ」
「うえっ何が!?」
「どうせ俺が騒いだって何か変わるわけじゃねぇし。こんなセコい嫌がらせは三年だろうから、もうすぐ引退だしな。面倒だからもう気にしねぇわ」
 ぽかんとした。あっさりと肯定をされると思っていなかったし、こんな爽やかな黙認が行われるとも思っていなかった。
「じゃあ帰るか」
「せ、先輩!」
「あん?」
「あ、えー、と」
 何か言いたいが、何も言えなかった。笠松先輩は自分のロッカーから自転車の鍵を拾って、帰るぞとまた言う。
「黄瀬、さっさと出ろ」
「あ、はいっス!」
 荷物を掴んで、出入口をくぐる。扉が閉まったとき、気づいた。シャツは乾いていた。









お年玉として捧げたもの
海常を書きたくて仕方なかった

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