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ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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 カーテン越しの朝日が、ぼうっとした頭を温めていた。目覚し時計は二十分ほど前に止めていて、文字盤は見えるが意識として入ってこなかった。
 普段なら、そろそろ起き上がらないと朝錬に間に合わなくなる。でもそれは昨日まで。この時期は特段朝錬をしなくてはいけないほどことはないし、大きなイベントの後には、学校だってだって休まなくてはならないだろう。尤も、朝錬があったところで今の俺は行けないんだが。
「……なんで、おれ……、言っちゃったっスかねー」
 ぼうっとした頭がそれでも信号を出して、口からは声が出た。それによって少し意識が戻ってくる。自分の声で覚醒するなんて変だけど、もともと寝ぼけていたわけではない。むしろ一睡もしていないんだ。
 昨日、三年生が卒業した。
 たった一年の付き合いしかないと言っても、入学したばかりで右も左も分からなかった俺たちを引っ張ってくれたのは三年生だ。委員会も部活も行事も、三年生が中心だったように思う。式の最中に号泣してしまう友達も大勢いた。
 そのうえ誰かに恋慕していた人は、もう、最悪。付き合っていた者も別れた者も、せめてもの想いを打ち明けた者も仕舞い込んだ者も、これでお終いと泣いていた。一方的に慕っていたからか、俺は泣かなかったけど。
「……おれ、ほんとバカっスね……」
 ただ、一応俺も告白したんだ。伝説の桜の木なんて海常高校にはないから、帰る途中で、ぽつりと。
 思わず言っちゃったって感じじゃ、なかったんだ。好きだから伝えられるだけでいいやって、断られる前提で告白したんだ。なのに。

『……、明日まで、まってくれ』

 あの人は、そう言ったんだ。
 どうして、そう言ったのかは分からない。本当に分からない。咄嗟に出ただけだとか。傷つけたくなかったとか。ちょっとは、期待してもいいのかとか。考えたけど分からない。
「……バカだ……」
 でも、これは失恋だ。欠片さえ残らない玉砕だ。
 だって、明日は来ないんだから。
 先輩は卒業して、俺との今までは、昨日で終わってしまった。みんなの涙のとおり、これでお終い。昨日がすべての終止符だったんだ。
 思い出して、再び実感して、涙が溢れてきた。昨日あれだけ泣いたと言うのにまだ枯れないらしい。いつまで溢れるんだと思うが、手で拭っても枕に押し付けても止まる気配はなかった。


 秒針が更に十五回回ったとき、携帯が鳴り始めた。この着信音に設定した人は一人で、その人にこれから会えなくなるのだと思うと、やっと止まった涙腺はまた決壊しそうだった。
「……もしもし?」
 それでも何とか押さえ込んで携帯を耳に当てる。いなくなってしまった人は朝早く悪かったと言って、悪いついでに外に出てきてくれと言った。家の外でいいと言うので、何事かと中途半端に閉めていたカーテンを開くと、眼下に先輩がいた。見上げていたのか目が合って、手を振ってくる。
 慌てて降りた。すでにキッチンにいた母親が驚いて止めてくれなかったら、パジャマのまま飛び出していくところだったから相当だ。なにしろ春になりつつあるといっても、三月の朝はまだ随分と冷え込んでいるのだから、せめて何か羽織って行かなくては風邪を引いていただろう。
「笠松先輩っ、何スか!」
「お、おう。ちょっと落ち着けよ……」
 手櫛で跳ねた髪を直しながら向かうと、先輩は少し引いた。
 それから、ちょっと眉を寄せる。何かしたかと思って焦ったら、目が腫れていると言われた。
「え?」
「お前擦っただろ。赤くなってる」
 言われて目元に手をやると、たしかに少しヒリヒリする。擦ったつもりはなかったが、何度も何度も拭ったから、こうなったんだろう。
 はっと、泣いたことが丸分かりになっているんだと気付いて、慌てて大丈夫だと言ったが、声まで枯れていてますますバレてしまった。笠松先輩はいつものとおりため息をついた。近づいて撫でてくる。
「黄瀬、またお前、俺に振られたとか先走って結論出したんだろ」
「……っ」
「図星だな。ったく、馬鹿だなお前も」
 なんでもないように笠松先輩は苦笑する。それは今までも何度も見ていた笑顔で、昨日で終わってしまっていたから、泣きそうになったけれど見惚れていた。
 どうしてこの人は、簡単に昨日を忘れさせてくれるんだろう。俺には一生理解できない力が働いているみたいだと思った。
「あのな、昨日は俺も気が動転してたんだよ。まさか先に言われるなんて思ってなかったから、思わず帰って、そりゃ勘違いもするよな……。おい、何呆けてんだよ? 俺の言ってることわかるか?」
「いえ……」
 さっぱり分からない。そんな、俺に都合のいいことが起こるなんて信じられない。
「……だって、明日は、来ないはずっスよ……なのに」
「何言ってんだよ、俺はちゃんと答えるって言っただろ」
 言ってないと思う。たぶんだけど、言ってない。
「だって、昨日で終わりだったじゃないっスか。だから明日は来ないから」
「いや、まじで何言ってんだ?」
「……あれ?」
「……まあ、それはどうでもいいだろ、今は。それより黄瀬」
 笠松先輩がまた笑う。

「俺はお前が好きだ。だからこれからも毎日付き合えよ?」

 言われたことは反芻さて、しばらくして、赤面する。頬がかあっとなったんだって自分でわかって、両手が必死に隠した。
 見てた先輩は笑っていたけど、そのうち驚いて、困った声を出した。
「泣くなよ、お前……」
 ちょっと謝りたくなったけど、声はますます掠れていて、俺はしきりに頷いた。涙を乱暴に拭ったら、先輩に叩かれた。






今年度の三年生卒業おめでとう!

あえて今日を消して書いたのですが、読みづらいことこの上ないですね。すみません!

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