ぽたぽた。
WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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1 2 3(オムニバスです)
[同病相憐れむ] コートの端で良を撫でる若松が目に止まる。びくびくしながら良は恥ずかしそうで、若松は豪快に笑っていた。 「なんや、不満そうな顔しとんなぁ」 近づいてきた今吉サンは一言そう言って眉を寄せた。それでも細い糸目は笑っているようでムカつく。 「ひどう不機嫌やな、そがん顔せんでもええやん」 「……せっかく来たのに小言しかいわねーのかよ」 「止めれや、いい加減」 鬱陶しくて横目で睨むと、今吉サンはにやにやと嫌味に笑う。胡散臭い笑顔だ。 「お前らが一緒におって、いいわけないやん」 見透かした言い方が苛立たしい。そんなことを言うために話しかけてきたのかと思う。 そんなことはわかっている。それでも、それがどうした。 「いーんだよ」 睨みつけるように言い捨てる。今吉サンはますます眉を寄せ、怪訝そうな顔になる。 いいんだとまた言った。正直、愛だとかめんどくさいし、どうでもいい。愛して欲しいと想うことが当たり前だとも思うけど、それだってよく分からないうちは面倒だ。だから愛があるとかないとか、そんなのは関係ない。 ただ今は、あの人は、俺をしっかり見てるのかなぁ。そんなことばかり考えている。 「はいはい、もうええわ」 今吉サンは呆れたようにそっぽを向く。去り際に、なんで好きになってしまったんだかと憎々しげに呟かれた。別に怒らせたかったわけじゃないのに、うまくいかない。舌打ちしたのは自分にだ。 周りを見渡せば視線を逸らされる。目を合わせたくらいで噛みつきゃしないのに。今吉サンは若松と良のところにいて、あの中に入れば、誰かの目に止まるだろうかと思った。 その思考が忌々しくて、もう一度、大きく舌打ちした。 [赤トンボ] 今吉さんは諦めが早すぎると思う。文句を言われても聞き流して、何かあればため息を吐いて仕方ないと呟く。何もかも悟ったように、簡単に笑って止める。周りのために自らを捨てているようだ。 最初はそれが腹に据えかねて、そのうち正しく思えてきて、一緒になって諦める。だってそれは、たぶん一番分かりやすくて賢いやり方だ。 「けどまあ、ムカつきますね」 「だったら近寄んなや、俺かて男にくっつかれとーない」 「それは無理です」 理不尽なことを言うと腰に回していた腕を叩かれた。これ以上機嫌を損ねると後で酷い目にあうから、素直に腕を解く。解放された今吉さんはつまらなそうに首を掻いた。それだけで、遠くに行こうともしないで、ただ拗ねてみせる。子どもではないのに、子どもっぽい。 頑張ればすぐに届く位置にある生白いうなじを見る。あまり筋肉がついていないからか、そこはえらく細く見えた。俺の腕と比べたらこっちの方が太いんじゃないだろうか。 比べるように腕を首に回す。今吉さんの背中に覆い被さる格好は、今吉さんがでかくていつも上手くいかない。もっと細かったらいいのにと思うが、無いもの強請りなんだろう。また叩かれたくないから黙っているが。 「おーい、重いわ、寝よるん? よだれ付けたら殺すで」 「……寝てねぇっす」 言い訳に眼鏡を引っ張る。嫌がった彼がこちらを向いて眼鏡を外す合図は、もう慣れた。呆れるような長いキスも。離れると今吉さんはまた前を向くから、いつも彼の後頭部しか見えなくなる。 再び腕を腰に回して、再び現れた無防備な生白い首を見つめる。 「……なあ、俺、若松のこと苦手やけどな、愛しとるで」 「……どうも。あと、俺もです」 背中に耳をあてながら、答えた。とくんとくんと背骨の中心から心音が聞こえてきて、こういうのを哀愁やノスタルジックと言うのだろうかと、場違いな眠気に犯された脳が鈍く考える。間違ってはいない気がした。 今吉さんが何か言ったけれど、それは聞き流してしまった。今吉さんもそれはわかっているようで、なんだか何でも知られてしまっているみたいで少し居心地悪くなる。ただ、同時に、とても愛しいと思う。 [哲学] ベッドに裸体が沈んでいる。ほんのりと色づいた肌は健康的に白く、淫靡な光景にくらくらして、すみませんと呟く。 「謝らんといてや」 「はいっすみませんっ」 「ほれ、また」 「すみません!」 どうしても謝ってしまうことの言い訳のようにキスしたら、舌に噛み付かれた。僕は泣いて、今吉先輩は笑う。 もう一度キスして、今度は絡みついた。うまく呼吸が出来なくなって、今吉さんの胸を叩くけれど許されず、離すころには僕の息は切れ切れだった。 「のう桜井」 「はひっスミマセン!」 「何も言っとらんわ。お前、誰が好きなん?」 今吉先輩が僕を見たまま言う。誰が好きかとか、そんなことを気にする人だと思っていなかったから驚いた。そして、嬉しくなる。キスして、抱きしめて、それが嬉しくて嫌でないなら好きなんだろう。だから僕は、たしかにこの人が好きだ。 「今は、今吉先輩です」 「あっはっは! 素直やなぁ~」 頭を振って今吉先輩が笑う。そっぽを向いた顔は眼鏡がないためか傷ついたみたいに歪んでいた。 でも僕はそれに気づかないほど、さっと動いた髪の間に目を釘付けされていた。テレビで言うような心臓が跳ね上がるような感覚はなかったけれど、ともすれば息を止めてしまいそうで、深呼吸を繰り返す。ちりちりと焦れている心を宥めながら、目の前にあるうなじに手を伸ばした。 「俺な、桜井のそういうとこ好きやねん」 笑い声が言う。催眠術でも掛けるようにゆっくりと伸ばしていた手は、うなじを通り越してベッドに触れた。 「聞いとる?」 「はい! すみませんすみませんッ、あの、あ、ありがとうございます!」 「ええよ~」 今吉先輩は笑う。歪んでいく唇は赤くて、細く細くなる眼は冷め切っていて、僕はそれだけで興奮していた。キスマークに苛立っていた気持ちなんて一気に霧散していく。心臓が早鐘を打って、好きだ好きだと訴えてきた。 またキスしようとして、引き離されて思い出す。今吉先輩はキスが好きじゃないんだった。 「好きすぎてホンマ、殺しとーなる」 言われて僕は殺されたくないから焦って謝った。でも、もしさっきのままだったら死んでしまうのは今吉さんだったなと思った。思うだけで実行なんて出来ないだろうけど。 それと一緒に、僕はなんとなく、あの質問は答えなくてよかったらしいと察して謝った。 [4月1日] 青峰、と若松が呼んでくる。名前を呼ぶ声って感情が過多に入ってるよなって思って振り向いたら、若松は無表情だった。 「俺はお前が嫌いだ」 ぴくっとタオルに伸ばしていた手が止まる。ざわざわとなる感覚を押し込めながら、何を言うつもりだと視線を合わせようとした。 「仲間で後輩で、すげぇと思うし大切だけど」 若松はわずかに俯いていた。そのせいでか声がいつもより小さい気がした。まあ、そんなの気にしないけど。 「すんごい、好きなんだけど」 小鳥がチチッと鳴く声が聞こえた気がする。ムカつくなぁって思ってたら、若松が顔を上げた。無表情が、変わる。堪らないように我慢ならないように、眉が寄って口元が歪んだ。 まっすぐ、弧を描く。 「悪いな、やっぱしなんか嫌いだわ!」 そう言って若松は、笑った。大声で、屈託なく、ただ本気で心の底から、晴れやかに唇をにやつかせた。 俺も、笑った。にぃっと唇を吊り上げて、笑えている。だって可笑しくって仕方ねぇ。 「俺も、アンタが大っ嫌いだよ!」 叫ぶと俺も若松も吹っ切れていて、やっと出てきた笑い声にまたおかしくなって笑い続けた。意味も分からずに腹を抱えて笑い合う俺たちに気付いた今吉サンと桜井、他の連中が集まってくる。でも近づいてはこなかった。俺も端から見たら近づきたくないだろうな。 今までのことを色々思い出して、馬鹿馬鹿しいと思う反面で、必要なことだったんだと、とてもいとおしく思った。だから、もしかしたら俺たちはかなりお似合いなのかもしれない。だってそうだろ? 俺たちはこんなにも好きあっているんだからな。 「嫌いだよ、青峰!」 「俺もだよ!」 どうだよ、この状況は。最高だ。ちくしょうだ。だけど覚えとけ。それでも俺はアンタが大嫌いだ! ざまぁみろ。 同病相憐れむ 似たものは互いに惹かれあい、互いに親しみ合い、自然に寄り集まる。 赤トンボ 夕焼けこやけの 赤とんぼ 負われて見たのは 何時の日か 哲学 あらゆる仮定を退かしてものごとの根本の原理を考える学問。または経験しつづけた際の悟りのような考え。 4月1日 綿抜き。エイプリルフール。 フリティラリア・カムチャトケンシス 正式名(学名)Fritillaria camtschatcensis var.alpina 、別名ブラックサレナ、和名黒百合 本来黒い色素は植物になく、変異や異常により生まれる。実際には濃い藍色。花言葉“恋、恋の魔術、ときめき、呪い” ――― キスする。身体を重ねる事も出来る。唯一無二、大切な存在。仲間で、理解者、共犯者。仲がいい。何でも話せる。思い切り喧嘩して、決別して、仲直りも出来る。一緒にいるだけで幸せ。安心してしまう。男が好きなわけじゃない、女好き。でも特別。崇敬、理想、憧れ。殺したいほど愛している。幸せになってほしい、幸せにしたい。嫉妬するし独占する。愛情が怖いんじゃない、でもよくわからない。道徳的にはおかしい、けど、そんなことで悩んでいるんじゃない。永遠に一緒にはいられない、とか、そんな諦めじゃない。非難されて辛い、悲しい、きつい、そういうんでもない。何も嘘は言っていない。 ただ単純に、どんなに好きでも、同時に嫌い。 でもやっぱり好き。 そういう桐皇のみなさん。 一応全ての話、若青を中心にしています。 PR |
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