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ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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 陽泉高校は秋田でも比較的積雪の少ない地域だったが、それでも東京の平均積雪量と比べれば当然多い。昼までまあまあ晴れていた天気は、風呂を上がる頃には壁になったような風と雪で無惨なものだ。吹雪がきたらしい。今夜には帰ってくる予定だったルームメイトも電車が止まって地元から戻ってこない。
 これは明日中には帰れないかもしれないと思い、紫原は眉を寄せる。手にしたまいう棒の包みを破きながら考えるのはお菓子の残量で、一般からすればとても多い量だが、年末に合わせて帰省するつもりだったから紫原にしてみれば少ない。そもそも買いだめしていないのだ。
 仕方なく購買で売っている分を買い占めようとしたとき、氷室が一緒に映画を観るならば自分の持っている分をやってもいいと言ってきた。氷室のルームメイトは早々に帰省しているし、寮生の大半がいなくなっている以上、教師もそう強く咎めない。それでお菓子代が浮くのなら安いものだし、紫原は特段嫌いなジャンルもない。
 ただ、氷室はホラーを観たがる。
 このホラー映画がとても趣味が悪い。アメリカ生活が長かったせいか、氷室が好きなのはとにかく虫やら地球外生命体やらが巨大化して、しかも群がってくるものだ。日本の静かなホラーもいやだけれど、ハリウッドの特殊メイクもああまでくると気持ち悪いと紫原は思っていた。
「怖いのかい、篤」
「……怖くなんかねぇし」
「ふぅん……、なら怖がってくれると良いな」
「だから、怖がんねぇしー」
 映画はやはりホラーのようだが、正直、本当に怖くなんかない。紫原は映画をきちんと見る気がないので、いつだって大して怖いと思わないし、CGを使った演出も嘘くさくて好かなかった。だいたい、いつも持ってきた本人が一番恐がっているのだ。
 面倒だなと紫原がだらしなくベッドに寝そべる間に、氷室はカーテンを閉めきって、部屋の明かりを落とす。それでも嵐の音は響いていた。カーテンをしたせいで、地鳴りのように低く聞こえる。確かにホラーを観る絶好の夜かもしれない。
 ウキウキした様子でクッションに座る氷室を睨みつけて、まあ条件だしとテレビ画面に目を向ける。もらったチョコレートはすでに食べてしまったし、恐怖内容によってはまだ観られるかもしれない。
 だがオープニングの後、月夜の農場に隕石が落ちてきたとき、一気に興味が失せた。やはり宇宙人かと思う。ちなみに、その中からは透明なジェル状のものが這い出てきて、近くにあった飼育ケースのウサギなど、場内の動物を飲み込んでいった。
 もういい、オチも読めた。
 画面に見嵌まっている氷室の邪魔はしないよう、もらった飴玉を転がしながら暴風雨の音に耳を傾けた。そのまま寝れないだろうかと淡い期待をするが、眠気はきそうになかった。

 映画はそろそろ中盤だろうか。紫原は途中から映画の内容を好き勝手に予想したが、予想どおりに進んでいって呆れてしまった。あまりホラーは見ていないのに以前観ただろうかと思うくらい、予想と外れない。
「敦、ちゃんと観ているのかい!?」
「観てるよー」
 しばらくは氷室のあげる、わざとらしい悲鳴も我慢しながら観ていた。だが、元々が興味のない内容だ。ホラー映画のテンプレートとでもいうのか、気味の悪い色に染まったスライムが人間を襲いだしたころにはすっかり辟易してしまった。正直言って詰まらない。氷室だってこれを好んでいるのか怪しいところだ。
「……?」
 そこで、観ていた紫原の眉がよる。
 スライムの食事対象があきらかに女性に限定されてきた。しかも大雑把な人型をかたどり、陵辱してから食っている。知能を持ったゆえのことだろうか。まあ、とにかく気持ち悪い。
「ねえ室ちん、これヒットしたの?」
「え? んー、どうだろ?」
「はあ?」
「だって皆、そんなにホラー好きじゃなさそうだったし、ならいっそのことB級なら楽しめるかなって」
「……」
 そういや氷室は天然の気があるとか、いらない気を回すなとか、言いたいが、もう声に出すのも面倒で口を噤む。
 飴玉をもう一つ食べながら言葉を飲む込んだものの、さっさと映画が終わらないかと観始めたことをいまさら後悔する。
「なあ敦、本当に怖くないのかい?」
「別にー」
 怖さは感じない。えげつないから、やはり悪趣味だとは思う。詰め込みすぎた内容だとも。
「ねえ敦、何で怖くないんだい?」
「なんでって面白くないからでしょー」
 答えながら、味に飽きて飴玉を噛み砕く。もらったお菓子が大量なことだけが今夜の収獲だ。
 氷室も映画に飽きたのか、何が怖くないのか質問してくる。
「敦は面白いのが怖いのか? サディスティック? なら精神系がいいのかな」
「精神系って何。気持ち悪いのはもう充分だし」
「そう……、それなら血は? ヘマトとか」
「はあ? 室ちん、何言ってるの。俺英語わかんねぇんだけど」
「そうだね、そうだ。それは俺だし、最後だと思ってる。でも、敦は怖くないのかい? 君って怖いもの知らず? 泣かないの?」
「それどういう意味? 俺だって泣くの、知ってるでしょ。もー、室ちんなんか変ー、それこそちょっと怖いんだけど」
 言った瞬間、ずっと画面を見ていた氷室が紫原を振り返る。急すぎて、振り返った目が暗くて、それがむしろ怖いと思う。
「俺? 俺が怖い?」
「……室ちん?」
「そう……、そう。うわ、敦、俺うれしい」

 ぞわっと。目を細めた氷室に寒気がした。

 危険だと思った。氷室の目の中には何もない。何も映していない。その冷めた暗雲の何処かで、雷鳴が鳴る。カーテンの向こうで窓がガタガタと揺れる。まるでポルターガイストのようで嫌な気分だ。映画の空気に影響されたのだろうか。ひどく気味が悪い。
「室、ち」
 紫原が耐え切れずに氷室の名前を呼ぶ。
 だがその瞬間、視界が反転した。ベッドとはいえ、打ち付けられた後頭部と背中が鈍く痛む。薄れ掛けた意識を集中させて、氷室を睨むと、感情のない声が返ってきた。
「敦、俺は」


 俺は、泣き叫ぶ君が見てみたいんだ。









ここまできて陽泉は初めてなんだぜ…
ヘマトは、血を見たら興奮する、くらいに思ってください

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