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ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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 季節は秋、空は快晴、背の低い人だかり。
 ある日、公園に猫が捨てられてた。






 ダンボールの中では、みゃあみゃあと四匹の仔猫が鳴いている。見て分かるし、ダンボールの中には「どなたか、もらってください」なんて書いた張り紙もしてあった。子どもの集まる公園に置いていったのは、無責任な飼い主の微か良心なんだろうか。
 しかめっ面になっていた俺の目の前で、女の子が猫を抱き上げる。「白くて丸いからこの子は真珠にしようよ」と言う。その向かいで男の子が「えー、猫はタマだよ」と言っていた。他の子が、黒いもう一匹を撫でながら「こいつは何にしようか」と言う。仔猫たちは楽しむようにみゃあみゃあと応えていた。
 しばらくして名前が決まってしまうと、友達がどうしようと言ってきた。見て見ぬふりは誰もできないから、仕方ない。
 とりあえず手分けして里親を捜した。みんな自分の親に一応聞いてみて(これはやはり全員無理だった)、近所の猫を飼っている家や学校の先生にも聞いてみた。関わってしまった無自覚の責任感で、一度断られてももう一回言ってみたりした。その甲斐あってか、ただ一人、里親が見つかった。俺のまったく知らない女の人は、みんながタンポポと呼んでいた尻尾の先が白い仔猫を連れて行った。
 しかし、その人以外は誰も猫を引き取ってくれなかった。自分の家で飼えないのだからお願いと押し切ることもできなかったんだ。日が暮れてくるとみんな家に帰りたくなるし、それでも帰れないから、どうしようと言い始める。
「ここで育てる? この公園なら、みんな帰りに来れるし、飼ってもいいよね?」
 誰かが言った。
「変わり番こに世話して」
「シャケとかあげたらいいもんね」
 安直な考えで、順番はどうするのかも餌をどうするのかも決めないで、みんな賛成した。それでももう、どうしようも困ったも誰も言わない。みんな当たり前の事をやっていると思っていたからだ。
 一番年上の俺が、明日の朝の餌やりになった。家から牛乳を持ってくればいいかなと考えながら、はっと道路に飛び出して危ないと気付いた。同じことを友達も思ったらしく、また全員でどうしようと考える。
「あそこに入れてあげようよ。あそこなら飛び出したりしないし」
 雪という名前になった白猫を撫でていた小さな女の子が指差す方には、埋まった土管があった。そこは自分たちが入ることすら出来ないほどの大きさけど、三匹の仔猫を入れるくらいわけもない。ダンボールよりも安全だと、元々入っていたタオルを敷いて、水とキャットフードも一緒に入れる。猫はジャンプして出てきてしまうから、ほかの男の子が木の板を持ってきた。雨が入らないようにするんだって言って上に被せる。そうして見ると、そこは鉄壁の要塞のようになる。
 これなら安心だと、みんなで言った。


 朝になって、俺はちゃんと餌やりをした。登校班で学校に行く途中で、忘れ物をしたと言って猫の家に行く。隠していた牛乳パックを開けて皿に流すと、猫たちはゆっくりペロペロ舐めていた。それを確認して、学校に走った。
 下校。一度家に帰ってから公園に行くと、女の子たちが何人か土管の傍で立っていた。昨日あれだけ抱いていた猫を誰も抱いていないから、どうしたのだろうと思う。しかし、そんな疑問は近づくとすぐに理解できた。土管の中が空っぽになっていたんだ。屋根は土管の隣に立てかけられていて、牛乳を入れていた皿は洗われている。タオルは近くのゴミ箱にダンボールと一緒に捨てられている。仔猫は一匹もいなかった。
 ひどいと誰かが言った。自分のそう思っていたけど、朝ちゃんといたのを確認していたからか、ショックで頷くくらいしか出来なかった。


 それから二日くらい経ったと思う。猫のことはまだぼんやり覚えていて(というより、よく似た仔猫を神社の近くで見たとか、いろいろ聞いていたからだけど)何処かにいないかなと帰り道をきょろきょろしていた。そんなことをしていたからか、散歩中のおばさんが「落し物?」と聞いてきた。
 毎日同じコースを散歩しているこのおばさんとは、帰る時間が被っているのでよく会う。いつもは挨拶か会釈をするくらいの関係だったが、不審者ではないと知っていたから、俺は猫を捜していたとちゃんと答えた。
「あー、猫はそこら中歩き回るから、わかんないね」
「別に飼ってるわけじゃないしいいんですよ。ただ小さくて可愛かったから」
「ああ、土管に閉じ込められてた仔猫でしょ?」
 びっくりした。でもおばさんは俺を見ないで話しつづけていた。
「私この公園通るけど、そしたら鳴いてる声が聞こえてね。見てみたら餌も取れんで衰弱してて、上見たら烏が狙ってたし。可哀想になって私出してあげたのよ」
 おばさんはため息をついて、土管の方を見た。俺も釣られて見る。
「誰がやったのか知らないけど、閉じ込めるなんて酷いことをするね」
 どきんとして、それでも顔はなんでもないように、少し頷いた。
 またおばさんが歩き出したのをきっかけに別れ、まっすぐ公園を突っ切って、おばさんの顔が見えなくなってから走り出す。家までの距離はもうそんなになかったから、全速力のまま部屋に駆け込んだ。布団の中に潜り込んで、枕にぎゅっと顔を押し付けた。
 閉じ込めているつもりなんて、なかったんだと。助けようとしていたんだと。思ったけどぜんぜん言えなかった。俺たちの考えが幼く単純すぎて様々は可能性に至らなかったための行動は、愚かだけど非難されるものじゃなかったと思う。幼い正義感を責めるような大人は傍にいなかったし、大人の言うことはつまり、そこにいた四匹すべてを見殺しにしてしまう結果になっていたに違いない。
 それでもあの時言えなかったのは、怖かったからだ。
 あの仔猫を救ってくれたおばさんに、殺そうとしていた犯人は自分だと知られるのが堪らなく怖かった。猫のことなんて考えてない、自分のエゴで告白しなかったんだ。
「……っ、ぅー……」
 ごめんなさいと心で言った気がする。口に出すなんておこがましすぎて、そもそも消えてしまった猫に謝るなんてできない。おばさんに謝るのだっておかしい。あの人も会話したのは今日がはじめてだ。
 苦しい、けど何もいえない。だって今も、怖いと思っているだけで涙は出ていない。自分がこんなにエゴイストだと思ってもいなかった。


 次の日は、当たり前に来た。女子の何人かが猫の家を壊したのは誰なのかと不満そうに話していたが、俺は昨日のことを言う気にはなれなくて、結局犯人は分からず終いになった。もっとも、俺は猫の救世主の名前を今でも知らないのだけど。
 それから何日か経って、猫の話題は消えた。みんな一瞬でも慈しんだのに、いなくなってしまった猫には何の関心も抱いていないらしい。みんなもエゴイストなんだと思ったが、心は晴れなかった。



* * *




 目の前で、みゃあみゃあと鳴いている捨て猫を見ながら、過去の苦い経験を思い出していた。あんなに苦しい思いをしたというのに忘れていて、自分のエゴに眉を寄せる。この猫たちが真っ白と真っ黒でなかったら、きっとまだ思い出していなかったと思う。
「かわええなぁ……。なー、笠松そう思わへん?」
「……可愛いとは思うけどよ、……俺飼えねぇし」
 デートの途中で立ち寄った公園に子どもの人だかりがあって、捨て猫がいた。今吉はしゃがみ込んで子どもたちと一緒に猫を撫でている。俺は今の今まですっかり忘れていた罪悪感に襲われて、なんとなく猫を直視できないでいた。
「うーん、そうやなぁ……ウチは飼えるかもしれへんけど電車乗らなあかんし、連れて帰れんもんな」
「……仕方たねぇだろ。もう行こうぜ」
 居心地の悪い感覚に耐え切れなくて、今吉を引っ張る。今吉は諦めの付かない顔をしていたが、しぶしぶと付いてきた。
 だが、すぐに立ち止まる。
「おい……」
「なあ笠松、今日いくら持ってきとる?」
「は? ええと、二万ちょっと……」
「頼む! ちょお貸しとってくれん? タクシー使いたいねん」
「は……」
 驚いて固まってしまった。
 もっとも、いったい何処へ行くと言うつもりなのかということで固まったわけではない。俺たちはまだ何も買っていないから手荷物が多いわけではないし、これから向かう予定の場所もタクシーを使うような距離ではない。ならば、今までの流れを追えばすぐわかる。
「ならん?」
「いや……いいけど」
「ほんま!?」
 ありがとうと礼を言って、今吉はまた子どもたちの輪の中に入っていく。そこから戻ってくる頃には猫を二匹とも大事そうに抱えていた。
「……飼うのか、そいつら」
「ん、飼うで。かわええもん、大事にしたるわ」
 今吉は笑う。彼の腕の中で二匹も笑うように目を細める。それに何故かすごく救われた気がして、タクシーに乗ってから(運転手は非常に理解のある人だった)片方を持ってやった。
「すまんの。デートの埋め合わせはいつかしたるわ」
「んなの、いつでも構わねぇよ」
 動き回る黒猫を制しながら、ついでにそれまで返済も待っていて欲しいと今吉が困ったような笑顔を見せる。俺はそれはもういいと言った。
 怪訝そうな顔になる今吉を尻目に、俺の腕の中でじっとしていた白猫は、みゃあと楽しそうに鳴いた。







前ふり長い!暗い!
22.02.22っていう奇跡に間に合っただけでも奇跡なので許してください。

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