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ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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(オムニバスです)




[矛盾]

 攻撃は、最大の防御。
「……てぇ……」
 殴られた頬を気にしながら、そんな言葉を考えた奴を恨む。上手く言っているし理屈も分かるが明らかに矛盾している。そんなことはあり得ない。
「よく、俺を殴るよな」
 天井を見上げた青峰がうろんげに言う。横倒しになった青峰の顔は痣が目立つ。きっと俺も痣だらけだ。
「なんで?」
「そりゃまあ、腹立つからな」
 呆れたような質問に疲れたまま俺も答える。
 なんでも何も、青峰の態度を考慮すれば当たり前だ。やる気もなく、見下して関わろうとしない。何か言おうとすれば暴言を吐く。向かっ腹が立つんだ。
「あと、おもっきし蹴るんだよなぁ」
「謝んねぇぞ」
「取っ組み合ったら引っ掻くし」
「お前だっていざとなったら噛みつくだろ」
 手を伸ばすと、それだけで簡単に青峰は近くなる。青峰がしっかり握り返すからだ。
「嫌いだ、若松」
「呼び捨てすんなや、俺も大嫌いだよ」
「はっ、上等」
 そう言って青峰は笑う。嘘臭い笑顔だと言ったが意に介さないようだ。
 なんとなく、最強の盾と最強の矛を思い出した。どちらも最強で、本当に戦っていたらどうなったんだろうか。どちらも砕けたか、或いは、時が止まっちまったか。
 くだらないと思いつつ手に力を込める。青峰も力を入れるから痛くなってきた。
 この拳が最大の防御を生み出せたら、青峰はもっと強くなる。だが最強の矛は抜き身の力だ。強くあるが、だからといって守ってくれるわけじゃない。守る盾がない。同じように、青峰の力がどんなに強力で強大でも、守ってくれないし守れない。
「あんた、大嫌いだよ」
 攻撃は、最大の防御。ふざけんな。ならなんで青峰は手を伸ばす。
「……俺は好きだからいいんだよ」
 俺が殴るのは、いつも抜き身青峰だ。





[他力本願]

 動かない良を見下ろしながら死んだかなと思う。体格でも体力でも俺が勝っていて、ついでに負担がかかるのは良の役だ。
 名を呼びながら揺すると、ぴくっと瞼が開く。しばらく焦点の合わない目が視線をさ迷わせるが、俺を見つけると止まる。そのまま僅かに笑われた気がする。
「青峰君は、誰かを好きになってくださいよ……」
 掠れた声で良が言う。縋るような口調だが、懇願ではなかったから、変な感じだ。
「好きになれ、ね」
「すみません」
 謝るのは、癖というより反射に近いとこの頃わかった。過去に何かしらあったのかも知れないが、良から話さない限り、聞こうとは思わない。
 今はただ、好きになれと言われたことを反芻する。そうしたら、少しむかついた。
「良、おい良」
「はい、すみませ……」
「好きだ」
 良は一瞬疑問符を顔に浮かべて、驚愕して、それからゆっくり微笑む。同時に赤くなっていくから、ああ、こいつ笑えば可愛いんだと改めて思った。
「……青峰君の、そういうところ嫌いです」
「ふざくんな」
 抱きしめる。腕の中に収まってしまって、ああ、良は小さいなと感じる。手の回らない背中が寒いけど、胸板に嫌いじゃない温さがある。近づいた心臓同士が鼓動を鳴らして、温まっていく気分だ。
 そのうち、良の手が背中へ回ってきた。そしてかすかに微笑んで言う。心臓が、少し冷たくなる。
「ごめんなさい、やっぱり嫌いです」
「ち、そーかよ」
 それでも背中は温かくなった。心臓が脈打つと、温かいなぁと、頬が緩んでいく。好きも嫌いも、この温かさに勝てない。所詮はその程度だ。
 俺は好きになれないから、良が誰かを好きになればいいのにと呟いた。そうしたらまた謝られた。





[鏡に吠える犬]

 部室を閉めたとき、思わず呟いた。
「気色悪いわ。あの二人」
「へ? すいません!」
「うっざい」
 近くにいた桜井がまた反応して謝る。こいつもうざい。
「練習するのしないの、いちいち鬱陶しゅうてならん。やめればええのに」
 毎度、試合ごとに突っかかって喧嘩して。勝っても負けても殴り付ける。あの二人はしょっちゅう目を合わせて殴り合うのだ。あれはもう手を使えるだけの獣の喧嘩だ、あれでは幸せにならない。なってもムカつくが、ならない理由がどうしようもなく下らない。
 ただ単に、自分の出来るバスケと出来ないバスケにそれぞれ苛立っているだけだ。出来ると出来ないは違うし、やりたいとやれるも違う。それがわかっていないからお互いを見ると吠えかかる。殺したくて、食い千切りたくて、もしそうなれば自分も死んでしまうことに気づかない。
「ホンマ気色悪い」
「ういっすみません本当すいません!」
「せやからうざいっちゅうとるやろ」
 何故隣にいるのかと思うが、問い詰めてまた謝られたくないし、かかわり合いたくない。最悪だと言いながら睨んだ。
 ばっと桜井は目を合わせないよう必死に逃げる。もしかしたら犬猫のように、目を合わせたら桜井も吠えてくるんだろうか。
「……ははッ」
 思わず失笑する。くだらない。くだらなすぎて、どうにもならない。





[かくれんぼ]

 青峰君がいない。鞄があったからまだ校内にいるのだが、保健室にも屋上への階段にもいなかった。仕方なく体育館に戻ると、他の部員の皆さんが悪態を付いていた。次の試合は青峰君が必要になると事前に言ってあったのに消えてしまったのだから当たり前だろう。
 原澤監督と桃井さんの話だと、出発前に見つけられたら試合に出るという。まるでかくれんぼだとキャプテンは呆れていた。
「いたか?」
「ひぃッすみません見つかりませんでしたすみません!」
「じゃあ、仕方ねぇな。虱潰しに回るか」
 若松先輩はさっさと歩き出した。僕はまた歩かなくては駄目なのかと内心泣きそうになったが、体育館に充満する空気を感じ続けるよりよっぽどマシだと思って、ついていく。
 一年教室、トイレ、家庭科室、図書館、歩きながら横目で見ていく。同時に、かくれんぼはどんな遊びだっただろうかと思い返していた。小さいときは公園などでやっていた記憶があるが、だんだんやなくらなくなって、高校生になってからは皆無だ。
「桜井?」
「かくれんぼは」
 鬼がこどもを探しだす遊び。鬼は古今東西喰らうもの、こどもは、供物。隠れている子供が、鬼に見つかれば、その子はどうなるんだろうか。
「喰べられちゃうんですか?」
「あいつ食ったら腹痛どころの騒ぎじゃねぇぞ、たぶん」
「若松先輩は?」
 喰らいたいだろうか。青峰君を喰らいたいのだろうか。
「桜井、おは前食いたいのか?」
 逆に訊かれて、僕は黙った。若松先輩は答えないとわかっていたのか、
一人でさっさと階段を登っていった。何となく、その先に青峰君はいるのだと確信する。
「……見つけなければ、何もなくて幸せですよ」
「だからって、見つけなかったら帰れねぇだろ」
 校長室の扉を開けると、鼾をかいている青峰君がいた。
 叩こうとする若松先輩を見ながら、遊びはお終いと呟いた。








矛盾
最強の矛と盾。答えなし。


他力本願
自分はしないで、他人がしてくれるのを期待する。


鏡像に吠える犬
相手が自分だとわからないで威嚇する。相手(自分)に無反応な犬もいる。


かくれんぼ
鬼役の一人が隠れている相手を探し出す遊び。本来は隠れる方が鬼だった。

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