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ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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暗いし長いので畳みます。
それとなく匂わせてはありますが、性描写事態はありません





 十時消灯の学生寮で、九時を回る頃に上級生の部屋まで来るものは少ない。それなのに若松は今吉の部屋を訪れていた。今吉は隣部屋の諏佐と、若松なら次期主将でも大丈夫だろう、と話していたところだったので面食らうやら苦笑するやら。諏佐も同じ思いだったのか、笑いながらそれじゃ、とさっさと帰ってしまった。
 そんな同輩の逃走に内心むっとしながら用件を聞けば、若松が明日の部活を休みたいというので驚いて聞き返したところ、もっと驚くことになった。
「なんの!?」
「あっ、えっ……と、頭の?」
「バカは治らんで!?」
「……っすよね」
 笑いもなく真面目に返される。いや若松は苦笑しているのだがぎこちなさが強くて中途半端だ。関西人としては、ここは笑い取るところやろ! と言いたいがどうせ若松には無理な注文かと諦める。
「ほんで。真面目な話、病院ってなんやねん。お前持病とかあったんか」
「いやっ、そんなんじゃないです! ちょっと、その、……あの……青峰のことで」
「妊娠したんか!?」
「しませんよ!?」
 若松の反応に今吉は冗談だとかるく笑う。しかし驚いたのは本当で、ノリもあるが、せっかく淹れたコーヒーを落とすところだった。
 『青峰と若松が付き合っている』という噂は、夏が始まるころからちいさく流れていた。それはあくまでも噂で、二人の性格の相性や見た目の恐ろしさや、そもそもそんな生々しいこと知りたくないという本音により、訊ねる輩もいなかった。
 だが夏の終わり、青峰が若松にほにゃららなことを致しているところを見た一年がいたため、噂は事実になってしまった。バスケ部の名誉のために箝口令を強いたものの、青峰がところ構わずなせいで結局部員には知れ渡ることになった。口外すればバスケ部全体がそっち系だと思われるぞと脅しつけたのは記憶に新しい。当時、部長だという理由だけで聞きたくもない事実確認をさせられた今吉は思い出して頭を抱える。
「……調子悪いんか」
 コーヒーを渡しながらミルクと砂糖を尋ねたところ若松がどちらも断ったので、今吉は意味もなくすこしむっとなった。対抗したいが今吉はミルクを入れて飲むほうが好きだ。礼を言って口をつける後輩は、上目遣いに今吉のコーヒーを見ていて、ワシは猫舌や、と言うと意外そうな顔をされた。
「……ちょっと……やばいと思うんで、いろいろ」
「やばいて何やおい」
「何って、何か」
「はあ」
 若松が言いよどむと話は進まない。
 もともと大声で叫ぶし、熱血漢で実直。うっとうしい人間の代表みたいな若松だが、決して頭は悪くない。もちろん、本質的にも若松は熱血で単純思考だ。しかし一歩離れているときはひどく冷静で、理知的に周りを見て行動できる部分を持っている。常識的で我慢強く、理不尽な不満は言わない。直情型なのでたまに視野が狭まるが、それはフォローできないものではないし、若松も自分の否を素直に認めるタイプである。
(せやから部長させたいんやけどなぁ……)
 桐皇バスケ部では浮いてしまいがちな気質だが、その気質に惹かれるものは多いし、やる気と実力があるものにこそ人は集まるものだ。単純な力としても、くせのありすぎる青峰を操れそうなのはこの男くらいだ。
 そういう意味では、今吉ははやく青峰が若松に惚れることを望んでいた。
「青峰にちょっとは自重しろて言わへんの?」
「いや、それは、もういいんですけど」
「は?」
「だからその、青峰に、そういうことで乱暴されるのはもう慣れたっていうか」
「……」
 すこし、真剣に話を聞こうと思う。今吉が適当に崩していた足を組み替えて若松と視線を合わせると、若松にもその気が伝わったのか、何故か泣きそうな顔をされる。その表情は、青峰との噂について問うたときにも見ていた。
 あの噂は、事実になったが根本的には間違っていた、というのが正しい。
 というのも、青峰と若松は付き合っていないし、その関係はほぼ青峰の性処理であって毎回強姦に近い。いや、目撃してしまった部員の証言からすれば完璧な強姦である。抵抗しないんだ、と青峰は言うが、お前に殴り蹴飛ばされて抵抗し続ける人間は多くないと知るべきだと今吉は思っていた。
 ちなみに若松からはいまだに同意があるのは確認が取れていない。関係が続いているあたり意外に良好なんじゃないかなんて諏佐は言っていたが、まずそれはないだろう。
「なあ何があってん? 病院て、ほんま大丈夫なん?」
「……」
「ワシにはできへん話か? そんなら深くは聞かへんで、そう言ってくれりゃええ」
「……そんなんじゃ、ねぇっす」
 さて、問い詰めると決めたらさっさと追い詰めるのが今吉の信条である。まどろっこしく逃げ場を奪うのは相手のことがわからない場合であって、今吉は若松と一年半を過ごしてきただけの情報があるのだ。若松の性格はすでに知っている。だから今吉が先輩としての立場を盾に攻めれば、体育会系の縦社会が身についてしまっている若松を篭絡するのは容易いことだった。事実、若松は苦しそうに俯いてしまっている。
 もう一押しすれば簡単に言いそうだが、同時に、それでも言いよどむ若松の様子が強い違和感で、今吉は逆になにも言えなくなった。
 沈黙が下りる。
 もしかしたら本当に言えない話なのかもしれない。しかし、それなら若松がそう言わないのはおかしい。
 しんっと部屋がまた沈黙する。時間はすでに九時半をまわっていて、そろそろ戻らなくては点呼に間に合わない。その焦りは若松にもあったのか、無理矢理にも整理をつける気になったようだ。
「……青峰を、襲いそうになって……それはおかしいだろって、……もうさっさと病院に行きたいんです……」
「……はぁ?」
 一瞬、今吉の思考回路が止まる。若松はそんな今吉の様子に気まずそうに目を逸らしたが、そのまま話しつづけた。
「俺、もともとそんな女役っての、したかったわけじゃねぇし、絶対殴るとか思ってたんですけど……、一度飛ばされたとき、青峰の顔見て、すんごい目が溶けてて、エロくて、……俺、それですんごく興奮したんすよ」
「……なんやそれ……」
「すみません、こんなこと聞かせて……」
「いやまあ、うん、いいんやけど」
 気まずい空気が流れる。なにか意味もなく可笑しくなって、ことさら明るく今吉は苦笑する。空回っている実感はあったが、今吉とていっぱいいっぱいだった。若松は、何か思い出しているような、うつろな目で落ち込み始めた。
「青峰って、寝たらもう寝ぎたないんっすよ、……寝たふりしてるときもあるんすけど、あんま、なくて、寝てるんですよ」
「うん、そやな」
「で、俺は、その、眠り浅いほうで」
「ああ……そやったな」
 正確に言えば、若松は眠っていても人の気配で起きてしまうタイプだった。部屋で一人でいるときなどは熟睡できるが、寮では同室の相手が身じろいだり、見回りの教師が部屋に入ったりすると途端に目が覚めてしまうのだ。部活が始まってしまえば毎日体力的に限界を迎えるため気絶するように眠れるそうだが、それでも一年のころは寝不足気味だったという。
 先ほどの話のとおりなら、今は青峰のせいで強制的に気絶させられるのかと、今吉は頭痛がひどくなる。最悪な方法だと思うし、体が休まっているとは思えない。
「……寝不足か」
「……結構、でも、問題はそこじゃなくて、……起きた後が、問題で」
「うん……」
 起きるのなら、それは若松にとって、青峰が相変わらず『他人』であるということではないだろうか。
 喧嘩ばかりの、気の許せない相手。そのうえ捕食者としての態度。若松の言葉から、実際には気持ちの上では若松が青峰を許している状態だと分かったが、そんなことで体質は変わらないし、事実疲労として蓄積されている。
「俺、あいつにいろいろされた後ってぐったりしてるんですけど、この頃そっちに慣れたのか、夜中に体温とかで目が覚めちゃって、そしたら眠れなくて」
「うん」
「青峰は、ぜんぜん起きなくて、俺は体のあちこち痛いしきついし最悪なのに、なんでこいつ寝てんだよって、鼻とか抓んだりしたことあんですけど、やっぱ起きなくて、あ、でも思いっきり叩いたらさすがに起きたんですけど」
「うん」
「それで……、どうせ寝れないからって最近あいつの体触ったりいじったりしたんですけど、起きなくて、でもちょっと苦しそうな顔したり、眉間ぐっとしわ寄せたり、……たまに、すっげえ、甘い声出すときとかあって……」
「うん……?」
「ああ、こいつ、寝てると無防備なのかって、思って……かわい、くて」
「……、……うん」
「喉とか、見てたら、……勃、った、り、して」
「……」
「……襲いたくなって……」
 なんだこれ。言い知れぬ気味の悪さに今吉はもはや絶句する。
(……ただの惚気話、やろ……?)
 そう思う。思いたい。
 だが、惚気るなと怒鳴りたい気持ちがよりも不安がどんどん湧き上がってくる。若松はいっそ言葉にするほど奈落へ気落ちしていって、その顔は思いつめていて、簡単に、青峰との情事の余韻を引き継いだための惚気で若松も男だということだと、言葉にできない気がした。
 何かがおかしいのだ。
 それは、こんな話をしているのに一切表情の変わらない若松だとか、ただ重々しい声色だとか、言い表わしにくいものばかりで気持ちが悪い。不穏な気配がするとでもいうのか、意味がわからなくて嫌だった。視界の端にコーヒーが見えていたが、すっかり冷えてしまったそれを飲む気も起きない。
「青峰って、力強いけど、俺もそうだし……、つか体格変わんねぇから俺と一緒で、上から押さえつけたらどうにかなるんだろうなって、それなのにあいつ、あんな無防備で、……簡単に襲えるんだなってわかったら、その……」
「……襲ったん」
「……」
 若松が揺らしていた目を、あからさまに伏せる。そのうち、ちいさな声で、近いことを……、と呟いた。
 どっと疲れが湧いてくる。
「……なんや、したならんことした自覚はあるんやな」
「……っす」
「ほんで、気まずうて青峰に顔見せられへんのやな?」
「はあ、気まずい……っすね、こわいっつうか」
「……怖いか」
 まただ。やばいとか怖いとか、若松の奥歯に引っかかるような言い方。
 聞かないほうがいいと、本能的な部分が激しい警鐘を鳴らしているが、今日の練習中、青峰が何かを感付いている様子はなかったのだ。若松が怖がるものがわからない。青峰を人前で襲うほど追い詰められている、ような感じではない。もっと後ろ暗い感覚だ。
 こっそり身震いする。怖気のようなうすら寒い感覚がして気持ち悪い。
 怖いとはなんだ。青峰と対峙して怖いのは試合中か、体験したことはないが若松のように犯されているときだろうか。下手なことをして痛みを伴うセックスになることを恐れたのかもしれない。
 有りえそうなことを考えるものの、今吉はこれが違うこともわかっている。だが答えは出ない。気持ちが悪い。
 沈黙が落ちる。重々しい空気が益々気に入らない。
 そうした今吉の表情に、若松はさらに意気消沈して、すみません、と後輩の口癖をかすれた声で言った。
「謝らんでええけど……」
「……」
「……」
「……今吉先輩」
「なんや?」
「……俺、あいつのこと、抱きたいんすかね……」
「……」
 一般的な感覚から言えば男を、同性を抱きたいとは思わないものだ。
 若松の場合、自分が受け入れる側になったというある意味最悪の事態を経験しているため、自分が挿入する側に回る立場になることを望んでいるのかもしれないが、それこそ戸惑う点であろう。青峰という男の何が劣情を駆られるほど若松を悩ませるのかわからない。自分に与えられたものが快楽だけではないと知っているなら尚更だ。
(ああ、そや、それ聞いとかなあかん)
 ふっと、大切なことを思い出して今吉は閉じてしまった目を開ける。若松はぼんやりと目を床に落としていたが呼ぶとすぐ顔を上げた。
「なあ、若松」
「……はい」
「お前、青峰のこと好きか?」
 聞けば、若松はぐしゃっと顔をゆがめる。歯を食いしばっているのか唇が変に動き、今吉から床へ逸らされた目にはうすい膜が張り出した。それは零れることもなく、瞬きの間に消えてしまうようなものだったが、今吉は虚無感に似たなにかを感じた。
「わかりません……」
 若松がぽつりと言う。
「俺、青峰に襲われたとき正直怖かったし、痛かったし、……ほんと、わけわかんなくて……後からむかつくとか悔しいとか、そういうのがあって、……今も、なんで俺がっていうのはあって、でも、あいつは俺んとこ来るし、あいつは、あいつ、……めちゃくちゃにしてやりたいとは思うん、です、けど、好きかって言われたら、……わかりません」
「……そ、か」
 搾り出すように今吉が返事を返す。若松に聞こえたのかもよくわからない、かすれ切った声だった。
 何故だかぐったりと体が重い。頭はもう何も考えていない。
 心の隅のほうで、叫びたいような怒りに似た感覚が在るが、それは声にも言葉にもならず、ちいさいくせに重たく、指先一つ動かせない気だるさの核のように思えた。こんなもの、答えが出るはずがない。
「すみません……」
 若松が言う。目を動かすのも億劫な気持ちのまま見遣れば、若松も口と、喉くらいしか動いていない。無表情だ。今吉は、いつから目が合わんくなったか、とぼにゃり思う。
 若松は誰かと目を見て話すタイプではないけれど、相手を向いて話すタイプだったのに。動きもしないし、平時ですら出ている大声もない。嫌なことだ。
「……痛いのって、やっぱ嫌なんすよ。セックスとか、それ以外、とか」
「……うん」
「俺、いま、青峰から離れときたいんです。俺が、なんかされんのは、たぶん、抵抗しないんで……。でも、青峰が一緒にいるのは、……」
「……若松……」
 今吉が名前を呼んだのはほぼ無意識である。何も返さないままでは、若松が消えてしまう気がした。
 それは失敗だった。呼ばれた瞬間、若松はたしかに自分を取り戻したが、ぎりぎりで保っていた鎧は崩れ去った。
「今吉、先輩」
 呼ぶ声はかすれて、喉に引っかかって震えている。首が落ちてしまったような格好の若松の顔は見えないが、じわりと涙が滲んできた。感傷的なそれは零れないまま、瞬きで、また霧散する。
「俺、おかしいんすよ……俺、もうわかる、乱暴しても大丈夫なんだろうなって、だって、殴られたところで死ぬわけじゃないし、特に青峰みたいな筋肉質でがっちりした奴は大丈夫、殴っても蹴っても大丈夫……。それは俺で証明されている、けど、こんなん、怖いし、おかしい、し、……病院行って、とにかく、はなれて……、だって、俺、あいつの泣き顔見たいとか、声出させたいとか、でも、痛いの、は、嫌だし、青峰も、嫌だろうし、なら、……抵抗させなければいいんじゃないのかって、一瞬……殺してもって……っ、おかしい、俺おかしいっすよ、」
 若松の顔が、はぐしゃっと、ゆがむ。今度こそせり上がってきた涙は止まらず、口が半開きでわなないて、目を閉じたら零れるそれは、若松が乱暴に拭ったせいでよけい溢れてきた。

「いまよしさん、すいませっ俺、こわいんす……っ、俺、青峰の、首絞めてた……!」

 若松が泣き出した。泣き声は大きくて、寮の壁は防音ではないと知っているだろうに、ふ、くっ、押し殺している。今吉もそんなこと考えていない。考えられない。
 考えられない頭で、触れてやりたくて体が重くてのろのろと抱き寄せて、ようやく触れた瞬間、今吉も泣いていた。
 がっと抱きしめる。若松もしがみ付くように手を伸ばしてきた。自分より大きな後輩は、座っていてもやはり大きくて、どっちが先輩だかわからなくなりそうだ。すみませんと謝る若松を怒鳴りたいが、声にするよりも泣いていて、若松もそれから泣きとおしていた。
 若松はときおり、すみませんと言う。
 それは今吉に対してのもので、青峰に対してではない。
(それでも、青峰を殺そうとしたわけやない。殺したいほど、憎んどるんやないんや……)
 確信はないけれど今吉はそう思う。そうとしか思えない。
 今、今吉の頭では、弾き飛ばして逃げたいくらいの生理的な嫌悪と、決して離してはならないという直感的な恐怖が混在している。それが若松に対してなのか、ここにはいない青峰に対してなのかを考える余裕はなかった。
(若松は、青峰を殺さへん、殺さへんよ)
 すぐ病院でもどこでも行けばいいと思う。そこでどんな診断を下されても、今吉は自分の直感を信じる。
 それは願望であるけれど、今吉の腕の中の体温が、殺意を否定していた。




暗っっっっらあああああ
思いきり私の地雷(肉体的青若)なので自分でもどうしてこうなった!
今のところ青峰→はあっても←若松はありません

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