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ぽたぽた。 WJ黒/子の/バス/ケの二次創作BL小説中心女性向同人サイトです
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暗いし長いので畳みます。
それとなく匂わせてはありますが、性描写事態はありません





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「森山(も やま)先輩!今日一緒に帰(り)ませんか!」
「あ、……ああ」
「よっしゃあっ! マジ約束っすか(ら)ね、オ(レ)待ってますか(ら)!」
「……うん」
 今日も長い部活も終わり、自主トレ組もシャワーを浴びて終了ってとこに早川が突撃してきてそのまま戻っていく。同級生が何人か何事って顔でこっちを見てて気まずいやら恥ずかしいやら、正直地べたに座ってんのに座りが悪い感じがする。笠松が早川うるせえって怒鳴るのと、小堀がなつかれたな、って笑う間にそんな空気は霧散するんだけど、やっぱり苦く笑うしかない。
 だって、なつかれたんじゃないんだ、俺はあいつに、早川に告白されてんだ。……頷いちゃってんだよ。
 なあ、俺、早川と付き合ってるんだぜ。


「だんだん寒くな(り)ますね!」
「だなー、シャワー浴びるより風呂入りたくなる」
「ほんとですよ!」
 早川に告白されて一週間。変わったことは少ないっつか変わったことない。相変わらず早川は俺の名前呼べないし、バスケ一生懸命だし。土日も部活で消費、デートとかない。そもそもバスケしてるとき一緒にいるんだからまあ、今更なのか。でも今みたく一緒に帰るのは増えたかも。早川はいつだって誘ってくるし疲れてても気力湧く。何気なくちょっと遠回りしてるときとか道草してるときとか、気付いたら恥ずかしくってって考えんな! おかしいな、俺の隣は可愛い女の子って決めてたのになんで俺よりでかい奴がいるんだろう。泣きそう。
「あの、森山(も やま)先輩」
「なんだ?」
「オ(レ)は森山(も やま)先輩のと好きで、大好きです。愛してます。先輩は?」
「っ、だから」
 なんで。なんでなんでなんで。神様はバカな言葉を作ったんだ。なんで、「好き」も「愛しています」もら行がないんだよ!
 告白されつからこの押し問答を何回したっけ。早川は俺にどうしても言わせたいらしいが、早川に向かって言えとかそんな恥ずかしいこと出来るわけない。しかも帰り道とか、人は少ないけどどんな羞恥プレイだよ。家とか部室とかで促されても恥ずかしいけど。
「…………お前な、そういう言葉は簡単に言うもんじゃないだろ」
「そうかもしんないですけど……、オ(レ)、先輩のこと本気で好きなんです。だから好きって言いたいし、好きって言わ(れ)たいし、でも先輩、言ってく(れ)ないし。だったらオ(レ)が好きって言えばいいんじゃないかって」
「ストップ。ストップ、やめろ」
 うわあダメだ、もうダメだ恥ずかしいこいつはもうもういや恥ずかしい恥ずかしい! 俺が恥ずかしい! 俺がおかしいの、ねえ、なんでそこははっきり言うんだよ、恥ずかしいな!
「禁止」
「え」
「好きも愛してるも禁止! 言われたって困るし俺に言うな!」
「……え」
 うあああ俺まで思わず大声で言っちまったじゃねぇか! 恥ずかしいと頭を抱えたくなる。だがしかし仕方ない、だって俺、好きも愛してるも大切にしたいんだ。早川の言うとおり、嬉しい言葉だし優しい言葉だし、そういう言葉って大事だと思うじゃないか。
「先輩……」
「……なに」
 なんでわかんないかなと俺より背の高い後輩を見上げれば、そいつが思いの外遠くにいて、え? となる。声出たかも。なんか黄瀬とは違う感じの犬の耳が見える気がした。しょぼくれてる早川は珍しいっちゃ珍しい。というか、泣きそうだった。ぎゅうっとブレザーの裾を握る手が遠い、顔が、ただ情けないくらい歪んでる。
「先輩……、オ(レ)にあんま言わ(れ)んの、嫌なんですか……」
「え、ちょ、どうした」
「先輩は……嬉しくなかったんですか。すんません……オ(レ)、舞い上がってて、一言欲しかっただけなんです。でも先輩が……すんません、身勝手で……でも」
 あ、やばい。なんかやばい。とりあえずやばいことだけはわかる。
 たった四歩の距離を駆け戻って早川を掴む。うつ向いたら顔が見えるから、背けやがった。お前はもうなんなんだよ。こっちを見ない勘違いバカの手へ手を重ねてぎゅうぎゅうと握る。冷たいなこいつ、熱血漢は体温高いんじゃないのかよ。こっちみろ。
「待て早川泣くなっ」
「泣いて、ません。もう……言い、ません……か、(ら)」
「絶対何かおかしい! 早川、聞け、俺は恥ずかしいんだ!」
 言っちゃった! と羞恥に襲われるのはだいぶ後。今は早川を正すことが大事!
「言うのも言われるのも恥ずかしいんだ。だってこんな言葉……あー、でも……言われるのは……その、嬉しい、し」
「……っ、すんません!」
 ばっと、いきなり早川が怒鳴る。いや怒鳴ったわけじゃないんだろうが、大声で地面にうずくまられたら、まあびびるだろ。
 まあとにかく、こんな道の真ん中にでかい男がうずくまってんのは迷惑を通り越してシュールだ。汗は流したとはいえ、体を冷やすのもスポーツ選手として最悪だし、暗くても早川の首が赤いのがわかったから俺はひたすら恥ずかしかったし。もう本当、早く立ち去りたい。
 その思いから手を差し出せば、ようやく顔をあげた早川は真っ赤だ。
「ねえ先輩、オ(レ)やっぱ、その」
「え、あ」
 早川の顔がまたくしゃってなる。笑顔なんだけど緊張しきって泣き出しそうな顔。前にどっかで見たことがある。なんだっけ。でもどうしたって言う前に手を握られた。
 あ、まずい。早川の頬が赤いし目がなんか熱っぽい。これはまずい。いきなり表情の理由がわかって、記憶が一週間前に戻って、でも頭ん中が痙攣するみたいに思考が飛ぶ。まずいまずいまずい。ちょっと待ってくれ、たのむから待って。
「オ(レ)、先輩のことが、本当、先輩は嫌なんでしょうけど、二度目だけど」
「早川、待って」
「先輩、好きです、付き合ってください」
「……っ」
 これで、ここで、顔を反らせられるやつがいるなら見てみたいわ! ああでも無理! これ以上見つめあうとか、顔あっついし手もあついし、恥ずかしすぎてなんか泣きそうだし意味わかんねえ。手に力込めんな、なんかもう、手まで心臓みたいだ。なあ心臓ばくばくいってて、なのにぎゅぅうって、もう、なんなの、俺のボキャブラリー消しとんでるんですけど。
「早、川」
「うっす」
「お、れは」
 息を吸うのが一苦労だ。早川のせいだよ!

「俺も、好きだ」

 言っちゃった。ああ、なんだ結局、俺だってこの言葉じゃないか。恥ずかしいよ、本当。





   ら行なしの告白2











何故続いた

森山先輩大好きです(*´∇`*)

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【☆おは朝、今日の星座占い☆】

【1位 かに座、好きな人と急接近! うれしいハプニングに一日中どきどきしちゃうかも。素直になることが大事。 ラッキーアイテム:大きなかぼちゃ】
【2位 おひつじ座、チャンス到来。自分のペースを保つことが肝心。やぎ座の人を味方につけると上手くいくかも。 ラッキーアイテム:手作りの手袋】
【7位 いて座、あたふたと忙しい一日。一人で全部のことをやろうとしないで、信頼できる友人を味方につけよう。 ラッキーアイテム:孫の手】
【11位 さそり座、何をやっても邪魔ばかり。落ち着かないとさらに空回りしちゃうかも。いて座の人に要注意。 ラッキーアイテム:シャンデリア】
【12位 やぎ座、朝から疲れが取れなくてイライラ。アクシデントも起こるかも。苦手な人と一緒の時は慎重な行動を心掛けて。 ラッキーアイテム:カスタネット】

 それを見た瞬間、取ってきた新聞を放り投げた俺は悪くない。





「もしもし、木村? おは朝見た?」
『宮地か、おー見たぞ。なんだあれ、絶対に今日のこと知ってんだろ』
 占いを見たときの衝撃のまま木村に電話する。朝のロード終わったばっかで本当ならシャワーを浴びたかったが、あの1位と2位の衝撃はなかった。簡単なダウンをしながら木村の呆れ声に返事する。
「だよなー、なんだあれ。大坪見たかな?」
『見てるだろ、緑間に影響されすぎて(部活の)みんな見始めてるからな』
「言うな、むかつく」
『しかしまあ、これ、いい後押しになったんじゃないか?』
「だといいな。ま、そうじゃなきゃ面倒だもんな」
 占いを信じているかはともかく、おは朝を見てる奴が多いのは間違いない。高尾じゃないが緑間のラッキーアイテムにかける人事の尽くし方がおかしくって見始めた奴もいるし、ご利益にあやかろうとしてる奴もいる。かく言う俺は練習前にいきなり見て唖然とするのに飽きて見始めた。おは朝の視聴率が上がってんだとしたら絶対に俺たちのおかげだと思う。
 しかしおは朝はなんなんだ。俺はよく当たるとか言う以前の問題な気がしてきたぞ。
 つか告白する予定の大坪よりも、告白される予定の緑間のほうが順位が上ってどういうことだ。緑間、お前おは朝に愛されてんじゃねーの。
『だな。で、ちょっと悪いんだが』
「なに?」
『俺今日行けそうにない。従兄んとこの叔父さんが盲腸の手術するからって親父が昨日からいないんだよ』
「えっ、大丈夫なのか、それ」
『ああ、心配ない心配ない。手術は前々からするって決めてたんだが、親父も昔切ってるからよぉ、昨日になってやっぱり弟の近くに行くっつって出ていっちまったんだ。今日は卸しいれあるから忙しいと思う』
「うわあ……大変だな」
『おう。だから今日はバスケ無理だな、大坪にも言っといてくれよ』
「ああ、うん。って、あ、え? おい、あいつらん仲に俺一人かよ!」
『悪いな。結果だけ教えてくれ』
「知るか! もういい大坪玉砕しろ!」
『リア充爆発しろ』
「そうだ、リア充爆発しろ」
 玉砕するわけがないと思いながらも唸る。ひた隠しにしてるから大坪がそう思ってるなんて言われなけりゃ気付かなかったけど、いざ知ったらもう緑間もこれ大好きだろって気配がすごい。なんで周りは気付かないんだろうって高尾がいるからだけど、そんなん非じゃない。もう爆発しろ。ただし緑間だけでいい。
 ダウンし終えて着替えた服を脱衣所に放り込むと、リビングから味噌汁の匂いがした。だが生憎まだ電話中だ。部屋に戻ってベッドへ転がる。
「えー、まじで来れないのか?」
『多分無理。だからフォローよろしく』
「ぜってー嫌。そもそも俺ら関係ないし。ほっといてもくっ付くだろ」
『おい、せめて告白だけは予定通りさせろよ。これ以上練習中にチラチラされてたまるか』
「そりゃそうだけど……」
 時計を見たくてごろんと転がって、うつ伏せになる。お気に入りのアイドルが満面の笑みを浮かべている置き時計は7時半を指していて、あと数時間で集合かと改めて思うと気が滅入ってきた。
 あの無意識バカップルに一人で関わるなんて絶対にしたくない。俺、緑間苦手だしつーか嫌いだし、きっと俺がいたら俺がキレる。大坪もいざとなったら吹っ切れて告るだろうし、ほっといてもくっ付いてくれるんじゃないだろうか。今日の占いは最高だし。
 つか俺が切れなくても絶対に高尾が邪魔してくる。最っ悪。
「……ったく、高尾だけでもどうにかなんねぇかな……、ぶっちゃけあいつが一番問題だろ……」
『そうだな……、ちっ、よし、こっちで引き止めるか』
「はあ?」
『はあ、じゃねぇよ。俺が高尾捕まえとく』
「え、いや、いいよ。愚痴っただけだから」
『だって面倒だろ』
 いやいやお前何言ってんの。思わず起き上がって止めに入った。何言ってんだよ、本当。木村って簡潔すぎてたまに訳わかんねぇことになる。
「面倒だけどいいよ。今日、木村、家のことすんじゃん」
『それはそれ。いや、ぶっちゃけた話、高尾いたら仕事捗りそうなんだよ、あいつウザいけど喋んの上手いから』
「はかどるって、んなわけあるか! いいよマジで! 気にすんな!」
『あのな宮地。お前が嫌々ながら今日のことに手を貸してんのって大坪のためだろ』
 ぐっと、言葉に詰まる。だってその通りなんだ。
 緑間のためにってんならこんな手回ししてやんないし、緑間のこと考えるともうむかついて木村の家に行って軽トラ借りたくなってくる。しかし部活なり何なり、やっぱ精神的に助けられたし、今まで迷惑とかいろいろ掛けてきた大坪のためと思えば、我慢しようと思える。今日のセッティングのために大坪を問い詰めて吐き出させた緑間への想いについては目を瞑るが。聞きたくなかったし。
『おんなじでさ、俺だっては大坪に助けられてんだよ』
「……おう」
『あいつは自分の問題だし、あんま話しやすい内容じゃないから言ってくれなかったけど、これ、そういうのの礼なんだし、こんくらいしたいんだ。だから高尾は押さえとくから、お前は緑間と大坪、頼むな』
「……チッ……わぁーったよ、たく」
 なにこの男前? 木村が言ってると思うと俺としては似合わねーとしか思わないけど、たぶん男前なんだろう。あーもう、こいつに彼女いるの納得だわ。俺だって惚れそう。
 って木村の奴、電話持ったまんま苦笑してやがる。なんだその似合わない笑い方。お前はもっと大笑いするタイプだろが。(ただし高尾のようにバカ笑いはしない。しても許せるけど。)
『ま、そういうことだ。高尾は責任もって捕まえとくから、大坪蹴飛ばしてでも告らせろよ』
「おう、つっても高尾たち行くかわかんねーぞ?」
『あー大丈夫だ、来る来る。高尾に店のでかいかぼちゃやるって言っとく』
「なるほど」
 そういえば緑間のラッキーアイテムはかぼちゃだった。木村の店の野菜美味いし大きい、遅かれ早かれ高尾は木村の店に行くはずだ。もしかしたら二人して行くかもしれない。
「……はあ。木村、俺もそっち行って緑間連れてくわ。高尾よろしく」
『まかせろ。大坪も呼んどけ、バスケも行けたら行く』
「おっけーぃ」
 そう言って電話を切ってようやく一息。これからの予定をもう一度考えようとして、頭のほうが拒否した。まじ緑間のことなんて考えたくねぇ、大坪も趣味が悪い。
 脱力してベッドへ倒れこむと、放った腕が跳ねるのと同時に母親が呼んでくる。たった今横になったんですけど。
 しかし腹はその声に反応したらしい。朝食もまだだったから思い出したように空腹感が出てきて、仕方なくよっと声をかけて起き上がる。無駄に胸はいっぱいだが、だが食べれないってことはない。
 飯を食ったらそのまま木村の家に行こう。







先輩方の星座はうちの家族(5人家族で蟹座と蠍座がいるので丁度いい)

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 投げたボールはリングにぶつかり、しかし淵を一周して内に沈んだ。一対一、相手だけを見つめつづけているのに予想が外れ、何が起こるかわからないストリートは楽しい。同等ならばなおさらだ、これは黒子とはできない楽しさだ。
 今のゴールで得点は黄瀬より二点勝っている。つまり今日は俺の勝ちだ。
「だああ負けたあ」
「うっしゃあ」
「くっそぅ……」
 がっくりと黄瀬がうなだれる。後片付けとジュースを賭けた勝負だ、黄瀬の落ち込みは大きい。しかし勝ちは勝ちだ。
「ちぇー……火神っち、さっさと出てくっスよー」
「おーう」
 ボールだけは自分で戻してから着替えに向かう。すぐちかくの更衣室に入って、もう少し動きたかったかと首を回した。
 今日のことは以前から約束していたのだが、今日に限っていつも使っているコートはどこも空いておらず、ならばと学校まで足を伸ばした。他の学生やら部員やらがいて結局昼間はできなかったため、どうにもバスケットをしたくてこの時間である。午後をいっぱい使ったからといって、今回のように限界まで動いていないから満足ができない。黄瀬のような上位実力者と試合をしていれば足りなくなるのは当たり前だ。
(まあ、次まで待つさ)
 黄瀬の予定を確認しねえとと思いながら汗だくの服を鞄につめたとき、明かりを消され、暗さに慣れていない目は真っ黒になる。なんなんだ! とびびって振り向くと、月明かりの中、スイッチに伸びているのは見知った男の指。
「おい、黄瀬え!」
「あっははは」
 着替えもそこそこに消えた背中にまったくと軽く舌打ちして追いかける。暗いと言っても校内一角、校舎もまだ照明がついているから完璧に見えないわけじゃない。荷物を掴んで俺も走る。
 闇に眩んだ目はわずかな光源を使って影を追いかける。青々とした植え込みを曲がれば構われたがりの悪戯っ子はすぐ見つかった。逃げたくせに待っていたらしい。にっと口の端を持ち上げるから叩いてやった。
「痛いっスよ」
「知るか」
 言い捨てると黄瀬もふざけて殴ってくる。避けてやればじゃれるように追ってきた。
 校内を完全に出ると、秋口のせいか少し肌寒い。体は走り回って熱いくらいだが、ようやく黄瀬も上着を着た。
「あ」
「あ?」
 黄瀬の間抜けな声につられて声を出す。視線をたどって俺も空を見上げる。そうすれば、目に入った月になぜだか驚いた。
「……す、げぇ」
「……そうっスね」
 黄瀬から漏れた感嘆は俺より落ち着いていた。
「あれっスね、中秋の名月ってやつっスよ」
 やっぱりもう秋なんだと呟く声は聞こえていたが理解していなかった。
 月は特別大きかったわけではない。漫画にあるような青白で幻想的といいわけでもない。ただ完璧な円形をしていた。まん丸の黄色い月が煌々と、夏を残した闇に浮かんでいたのだ。
 雲は動かず、星はあるが見えない。電灯と、月が明るすぎるからだろう、その周りはわずかに夏の青に染まっている。地面へと降りてくる光は銀と言うよりは白っぽく、照らされたところがほのかに発光していた。光が空気に混じってだんだんと夜の涼しさを広げているように見える。青に黄色。金色。月だけが輝いている。息が詰まりそう、だった。
「火神っち?」
「……すげぇな」
 魅了されたみたいに目が離せなくなってしまった。いや、魅了されたのか。アメリカで月は、その美しさから魔性のものとして今でも伝わっている。魅入られるから直視していけないとは祖母から聞かされつづけたことだ。しかし、見てしまったのだから仕方がない。
「月ってこんな明るかったんだな、知らなかったぜ、俺」
「そうっスね」
 ぼんやりした感覚で相変わらず眺めていたら、いきなり黄瀬が吹き出した。怪訝に思って月から目を離すと、げらげら笑っている。でも、とか、だってとか聞こえたが笑い声に消されて意味をなしていない。俺が何かしたかと首をひねるがわからない。
「くっく……火神っちが無駄に風流っつか……ぷふははは似合わないっス!」
 しばらくしてやっと笑いの収まった黄瀬は俺と目が合った。その瞬間、また大笑いし出す。殴っていた。
「ちょ、痛ったいんスけど!」
「うるせえ!」
「えー!」
 かなり恥ずかしい。柄じゃないのはわかっているし、似合わないとも言われたが、腹立つと同時にとにかく恥ずかしい。憎たらしい黄瀬の顔が見えなくて、ジュース買いにいくぞって腕を引っ張る。
「顔真っ赤じゃないっスか! なにそれ火神っちったら可愛いー。ロマンチックきもーい!」
「てんめえええ!」
 馬鹿にするならまだしもきゃらきゃら笑いやがって、笑いすぎてて涙まで浮かんでやがる! あご外れっちまえ。
「よーし、とことんロマンチックにしてやろうじゃねぇか」
「まじやめて! 笑いすぎて死ぬっス」
「上等だろ」
「うお!? え、火神っち?」
 腕を更に引っ張って壁に押し付ける。
「ちょっと、今のまじなんスか」
「……」
 からかって終わるはずだった。だが、追いこんだ黄瀬が思いの外、白くてびびる。月明かりだからだろうか、赤味がなくて綺麗に白っぽく光っていた。
 俺がしゃべらないからか、黄瀬が顔から笑顔を消していく。まだ口に少しだけ残っているけれど、視線が揺れて戸惑っているのがわかる。なのに俺は目が離せない、声が出せない、何も考えられない。おかしいくらいに頭の中が真っ白だ。
 そのまま俺は黄瀬にキスしていた。
「――」
「……っ」
 黄瀬が目を見開く。間近にある眼球は明るすぎて虹彩が揺れるのすら見える。揺れたその光がまた、月のように思えて、焦れたように頭が熱くなる。なんだろうか、また魅了されたのか。沸き上がった感情が何かわからない。ただ、握りしめた手首は思ったより太くて頑丈だ。
 月ははるか高くにある。これは、おそらく、月のせいだ。月が、明る過ぎたのが悪い。月が綺麗だったからだ。

 すべて、月が悪い夜だった。







もはや冬です!秋に間に合わなかった名月記念です!今夜も月が綺麗ですね!(笑)

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 悔しいな。
「やはり……負けるというのは」
 緑間が呟いたそれだけで、もう何も考えられなくなってしまった。
 目が熱い。奥の奥から、炎症を起こしたように痛みと熱があふれてくる。頭が痛くてくらくらする。宮地先輩が泣いてて、木村先輩がそばにいて、キャプテンが、低く、うめいていた。
 呼吸が浅い、ちっとも整わない。首や頬が熱を持っている。痛い、熱い。
 無理やりなき止んで、ずっと鼻をすする。息が詰まった。やっぱり頭がくらくらする。それでも、体は動く。きちんと動いて、同じように泣いている全員と一緒にロッカーへ入る。ユニフォームを脱いで、背番号を見たらやばいと思ってバックに突っ込んだ。
 早く出ようと振り返る。もう動かないんじゃないかってくらい重たい体を引っ張っていけば、廊下にはスタンドにいる部員が、みんな集まってきた。
 ああ、嫌だな。こんな視界が不明瞭でめちゃくちゃなのに、見えてしまう。
 泣いているんだ。キャプテンは、おおきな人だった。図体ではなく、主将として、チームの要としておおきな人だった。厳しい人だったから包まれるような優しさはなかったけれど、それでも、キャプテンがいるだけで安心していられた。俺は絶対に守られた恩返しをするって決めてたんだ。でもキャプテン、副部長と抱き合って泣いてる。大泣きしてるんだ。副部長も泣いてるけど、ずっとベンチにいたから、喉が嗄れてる。
 その後ろで、宮地先輩は叩かれてた。ちくしょうって泣く宮地先輩を叩いている先輩たちもぼろぼろだ。あとできっと殴られる。皆真っ赤な目で、怒鳴りあう。あの人は人一倍努力家で、本気で怖いときもあるけどそれ以上にいつだって優しい人なんだ。そんな人まで泣かせてしまった。
 木村先輩は? つい見渡して、後悔した。先輩は逆に、壁に背中を預けて一人だった。ほかの先輩たちが泣いて木村先輩に向かっていって、木村先輩が泣いているのわかって、唇かみ締めた。あ、でも、マネージャーが一人、隣に座ってくれた。あの人知っている、木村先輩と付き合ってる人だ。
 そして緑間は、
(……真ちゃん。……真ちゃん、真ちゃん)
 緑間は立っている。
 今日は晴れだ。頭を冷やす雨なんて降ってない。だけど豪雨みたいに、応援していた部員が大声を上げて泣く間、声を上げて泣く資格もないというように緑間は立っている。雨がないから言い訳できない。
(あ、……うぁ)
 ああ、嫌だ。見えたらまた溢れてきた。悔しいからだ。俺は、もう泣かせないって決めていたのに。勝ちたいなんて同じだから、なら勝たせてやろうって、緑間をエースにしてやるって。
 勝たせてやれなかった。あれほどの天才が、その力を惜しみなく使ったというのに、泣かせてしまった。ふざけるなと、いくらなじっても治まらない。無力なのは事実、勝敗は覆らない。
 でも緑間が、誰よりも努力家で、自信家で、わがままで、かっこいい、緑間が、泣いてしまったじゃないか。
 悔しいな。
 うん、悔しいよ。
 悔しいさ、ふざけるな。
 いまだに硬く握り締めている手が痛い。爪が食い込むから、違う。血管が引きつるから、違う。悔しいからだ。
(なんで優勝じゃない、なんで勝ってないだ!)
 ベスト4。そんなものは望んでいなかった。そんなものはいらなかったんだ。
 人事は尽くした。先輩も、仲間も、緑間も、最高だったんだ。
 慢心していない。戦意喪失も気負いもなかった。なら努 力を怠った? まさか。全力した。人事を尽くして、天命を待つ。ふざけるな。俺たちには天命なんて、書き換えるくらいの力があったはずだろう。
 怒りがわいてくる。悔しい。悔しくて、悔しくて。涙は出てくる。悲しくはない、ちっともだ。ただ悔しい。全力したのに、勝てなかったその現実に怒りが湧く。
 悔しいな。
(ふざけんな! 何がよくやっただよ! 勝てなかったくせに!)
 勝てなかった。勝たせてやれなかった。
 頭の中を蹂躙するような声は俺の名前を呼び続ける。無力だとなじる。
 よくやったと、誰が言える。秀徳と言う名前を背負って試合に臨んだ者が、三年の先輩を蹴落として、託されて、戦った者が、勝てなかった。ああ、このままでは、俺はバスケが嫌いになりそうだ。


「それくらいでいいだろう」


 あ、と。
 じんわりと、響いたのは音。音。聞き取れなかった言葉が、それでも聞こえたのは、それが、監督の声だったからだ。
 俺たちと同じように、全力してくれた人だからだ。
「全員来い、集まれ」
 監督の声が、今度はしっかりと言葉で聞こえた。塞ぎたかった耳が言葉を通す。思わずまばたきした瞬間、溜まっていた涙がぼろっと落ちで、でも、おかげで視界もクリアになる。
「全員、背筋を伸ばしなさい。いつまで経っても話せないだろう」
「あ……、はい」
「返事」
「はい!」
 異口同音。監督に対する礼儀は秀徳バスケ部の基本だ。それは、どんな時でも変わらない。
「負けたな、……――負けた」
 監督は一瞬目を閉じる。まばたきと何が違うなんて聞かれても答えられないが、それでも分かる。
 負けた。改めて言われて、今度は怒りより辛さが立った。俺たちは、監督を日本一にすることもできなかったんだと思い知らされる。自然と目線が下がった。座る監督の喉のあたり、もはや誰もが押し黙る。涙は止まったがただきつい。
 だが、監督の喉が動く。
「それでも、秀徳は王者だ」
 いや、と、監督は手をあごに当てる。そして躊躇いなく言い換える。

「王者は秀徳だ」

 どきと胸が鳴る。見開いた視界で、監督は前を見ている。
「今日の試合は、全力だった。全員、総力戦だ。しかし負けた。この敗因がわかる奴はいるか?」
「……」
「わかるなら、全員に話せ。どんなに些細なことでも共有し克服しろ。そして、負けた理由がどんなに考えてもわからないなら――――誇れ」
 俺の息が止まる。
 同じように誰も呼吸しない。次の試合の歓声が聞こえるはずなのに、それも聞こえない。
 監督は続ける。心なしか、語りが遅い。
「負けるはずがないほど努力したなら、誇れ。羨む必要も卑屈になる必要もない。胸を張って背筋を伸ばせ。そして、次は勝つ」
 勿論、次もだ。頷いたのか、頭が動くのが見えた。
 音は戻らない。違う、掻き消されている。俺の心臓がうるさいくらい動いているからだ。
「西藤」
「はいっ」
「お前が主将だ。大坪、指導を頼む」
「はい!」
「王者は秀徳だ。来年なんて気の長い話をしてるんじゃないぞ、今から、秀徳は二度と負けない。学校に戻ったらミーティング、練習は明日の朝から、いつもどおり行う。三年も参加しろ。今後メニューは少し変えるが、一日で慣れるはずだ。自分の反省点は家で洗い出して来い」
「……はい!」
 返事をして、三年生も参加するなんてと、可笑しくなった。引退じゃないの?って、勉強大丈夫なのって、苦笑してしまった。
 バスへ促す監督の号令にすぐに全員立ち上がる。あちこちから大きな返事と盛大に鼻をすする音がして、かく言う俺も、目を思いっきり擦ってから立ち上がる。隣では真ちゃんが眼鏡をかけ直していた。近くで見たら目、真っ赤。兎みたい。笑える。ああ、なんか俺らしい。

(王者は秀徳、俺たちが次の秀徳)

 ああ、良かった。
 まだ悔しい。洛山が羨ましいし自分は不甲斐ない。先輩たちと優勝できなかったのも緑間を勝たせられなかったのも、悔しくてたまらない。この敗北は一生忘れない。
 でも、俺、またバスケが好きになれる。


「それから言い忘れたが」
「何ですか?」
「先ほど洛山高校に練習試合を申し込んだ。まだ検討中だが、予定が空き次第、再戦できるはずだ」
「……はあ?」
「仕方ないから、来週は紅白戦を行う。一、二年生対三年生。負けたほうは、うーん、そうだな……勝ったほうの我儘を三回聞くとしよう」
「え」
 耳を疑う。一年も二年も、三年生まで固まっていた。キャプテン、その顔やばい。緑間は理解できてないのかびっくりしてるのか、眉間の皺がなくてなんか可愛い。しかし、気持ちはわかる。監督は今、大量すぎる爆弾を落とさなかっただろうか。
「我儘の内容だが、轢くのはダメだが、まあ、一発芸くらいは許す」
 俺的にはまだ先輩たちとバスケができるんだと思うと嬉しくてたまらないし楽しみだけど、監督、その補足はいらない。キャプテンの後ろで宮地先輩がにやぁって笑い出してる。木村先輩まで悪い顔してる!
「やっべ……ぜってー負けらんないぜ、真ちゃん」
「……望むところなのだよ」
「だよなー」

 緑間が眼鏡を直しながら笑う。俺も笑う。やっぱり俺は、バスケが好きでいる。秀徳が、好きでいる。

 いつの間にか音は戻っていた。あの歓声が俺らのものでないのはきついけど。きっと思い出してうなされるくらい悔しいけど。大丈夫だ。
 王者は秀徳。
 俺たちが、次は勝つんだ。









支部での企画に参加しました。
秀徳のイメージってこんな感じ。実は一番かっこいいのは監督だと信じて疑わない私。本誌では負けてしまいましたね…いえ、わかっていましたが…
緑間が大好きなので緑間がいるだけでテンション上がっていた私としては、黒バス最熱の本当にありがたい期間でした
しかしこの話、モブが多すぎる

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